■妥当だった長谷部の退場
世界最速でのW杯出場。
それだけを聞くと、予選を圧勝で突破したように思えるが、実際は数字以上に苦しいものだった。
W杯出場をかけたアウェイのウズベキスタン戦は1点差でのギリギリの戦い。ホームでのカタール戦は苛々を募らせる引き分けと、格下相手にかなりてこずっていた。違う組では韓国、北朝鮮、サウジアラビア、イランが取りこぼしのできない勝負をしている。
もし、日本がそのグループだったらと考えるとゾっとするし、ウズベキスタンとカタールに敗れていたら、アウェイでオーストラリアとW杯をかけて戦わなければいけなかった。それを乗り切る力があったかといえば微妙なところではないだろうか。
しかし、その状況に追い込まれていたら、日本は苦戦したエクスキューズをこう切り出しただろう。
「中東の笛にやられた」
ウズベキスタン戦後、決勝点を挙げた岡崎慎司と同じくらい注目された人間がいた。中村俊輔や長谷部誠ではなく、彼らにカードを与えたバスマ主審だ。
立ち上がりこそしっかりとしたレフェリングをしていたバスマ主審だが、後半になるとフィフティフィフティの判定がウズベキスタン寄りとなっていたのはあきらかだった。
89分。左サイドでジェパロフに対応した長谷部が、ひじ打ちをしたとの判定で退場処分に。日本代表に関わる全ての人たちの、審判に対する怒りは頂点に達した。当然のように翌日の報道でも不可解判定の代表例としてこのシーンがとりあげられた。勝ったのにそうなのだから、負けたら「中東の笛」と言われるのは容易に想像できる。
しかし、実はこの判定自体は妥当なのだ。
Jリーグ開幕前に行われた日本サッカー協会の審判委員会による、メディア向けの判定基準講習会。そこで小幡真一郎チーフレフェリーインストラクターは「FIFAから肘を使ったファウルは厳しくとるように通達があった」と教えてくれた。
そのとき、今回のケースを想定していたかのようにメディアから「肘が当たらなかったらどうなるのか」という質問が挙がった。
その答えは「当然、カードを出します。肘を出して、当たらなかった。だから問題ないとはいかない。選手の安全を守るためにも、そういった行為と判断した場合はカードを出します」というものだった。
このことをふまえると長谷部の退場は仕方がない。判定は主審の目にどう写ったかが基本となる。長谷部に意図はなくとも、バスマ主審が危険だと判断すればカードが出てしまうプレーだった。仮に、もし日本選手が逆にあのプレーをされていたならば、「肘打ちじゃないか。退場だろ」という声が挙がっていたとも思う。
■審判に対する敬意を欠いていた岡田監督
バスマ主審が良いレフェリングをしていたとは思わないし、雰囲気に影響されてしまったのかウズベキスタン寄りに見える部分もあった。しかし、カードの基準などの大きな判定はしっかりしていた。カタール戦でズブヒディン主審がとったPA内での中澤祐二のファウルも同じように妥当な判定だった。
アジアのレフェリーのレベルは確かに低い。だからと言って、必ずしも判定が全て間違っているわけではない。日本全体が大きな判定を下したレフェリーを非難していては、いつまでたっても審判文化は根付かないし、タフな選手は育たない。反省すべき点はしっかりと反省するべきだ。
そして、審判に対する敬意を忘れてはいけない。
ウズベキスタン戦2日前。日本代表の対人プレーの練習中に、得点シーンでDF陣がオフサイドを主張すると、岡田監督が「今のは審判が見ていなかった」として、ゴールを認めた。同じ場面が再び起こると、今度は「今のは家本政明(JFAと契約するプロフェッショナルレフェリー)レフェリーだった」として得点を認めたという。
もちろん、岡田監督は家本主審を侮辱したかったのではなく、主審によってはファウルをとって貰えないかもしれないから、プレーを止めるなと言いたかったのだろう。
ただ、そうは言っても敬意を欠いた発言だ。
岡田監督のその敬意を欠いた姿勢が、もしかしたらバスマ主審をはじめとするシリアの審判団にも伝わってしまったのかもしれない。ゆえに、テクニカルエリアに飛び出し、阿部勇樹に指示を出していただけなのにもかかわらず、異議を唱えたと思われ退席処分にさせられてしまった。
審判を笑うものは審判に泣く。
審判に対し敬意を欠いた姿勢をとれば、痛い目をみる。そう肝に銘じなければいけない。楽なグループに入った最終予選だが、審判との向き合い方の大切さを身を持って教えられたのは日本サッカー界にとっては収穫と呼べるのではないだろうか。今後も各カテゴリーでアジアのレフェリーとは同じピッチに立つのだから。(了)
石井紘人(いしい はやと)
某大手ホテルに就職するもサッカーが忘れられず退社し、審判・コーチの資格を取得。現場の視点で書き、Jリーグの「楽しさ」を伝えていくことを信条とする。週刊サッカーダイジェスト、Football Weeklyなどに寄稿している。
