必然的な苦戦

バーレーン戦で岡田監督の狙いは、次の通りだったという。
相手のワンボランチをつり出しバイタルエリアを空ける→そこからボックス角を目がけてスルーパス→もし締められたらアウトサイドへ展開→あるいは繰り返すことでファウルをもらいセットプレーから得点を狙う。

だがこのプロセスを聞けば、そのまま点が取れない原因が浮かび上がる。
まず空いたバイタルエリアに進出しているのに、ミドルシューターが不在→密集地帯でスルーパスを受けても、リーチに勝る相手を突破しきれない→アウトサイドで受けた選手が縦に勝負をし切れない→またそこからクロスを上げても、中で勝ちきれる選手がCBしかいない。

岡田監督は、あくまで「負ければ絶望という必死の相手から、そんなに点を取れるものではない」と主張するが、むしろ必然的な苦戦だったと言える。

ただし「Jリーグを見渡せば、CBもCFもほぼ外国人ばかり。タレントに欠けるのかもしれないが、僕らはそこから始まっている」という同監督の言葉に嘘はない。
サッカー番長杉山茂樹責任編集「オールナイトサッカー」の中の対談で、ベテラン記者の荒井義行氏が指摘しているように、結局日本には「釜本邦茂を越えるストライカーも、杉山隆一を越えるウィンガーも出てきていない」という現実がある。
選手個別のメニューを作るべき

釜本−杉山のコンビで銅メダルを獲得したメキシコ五輪から、もう40年以上が経っているのだ。40年の間には、男子マラソンなら5分以上、最新 で北島康介が更新した100m平泳ぎなら8秒近くも世界記録が短縮されている。サッカーがあくまで相対的な競技だとしても、この間に釜本や杉山を越える適 性の持ち主が現れなかったはずはない。まして彼らが登場したのはアマチュア時代である。今は当時に比べれば飛躍的に競技人口も増えた上に、サッカーに取り 組む年齢も早くなっている。

それでストライカーもウィンガーも出てこないというのは、育成する努力が不足しているからとしか言いよう がない。よく釜本氏は「何本パスをつないだら1点というルールならパス回しの練習ばかりでもいいが」と、育成の指導現場を批判するが、実際釜本氏は代表入 りした頃から四六時中、いかに点を取るかを考え、そのための練習ばかりを繰り返した。杉山氏も代表合宿等を通して、どれだけドリブルからクロスを繰り返し たかわからないという。

当時日本代表を指導したデットマール・クラマーは、合宿中のメニューを全て個人ごとに作成した。そしてそれは日本の選手たちに対してだけではない。欧州最優秀選手を3度受賞したルンメニゲや、ベッケンバウアーらにも、同様に個人用の特別メニューを課している。
また、かつてバルセロナのカンテラ(下部組織)でボージャン、ドス・サントス以下を指導したジョアン・サリバンス氏も同様の見解を持っている。「指導者は常に個々に適した指導を心がける必要がある」

ところが現在の日本では、妙な平等主義が働くせいか、特に大人数を抱える若年層のチームではDFからFWまで同じメニューのトレーニングに終始するケースがほとんどだ。
FWも守備することから入り、サイドアタッカーもパス練習を繰り返す。するとオールラウンドに、よく走り、つなぎ、体を張る選手は育っても、最前線や最後 尾、あるいはサイドで決定的な仕事をするスペシャリストは育ってこない。むしろ日本の現状は、練習内容がそのまま反映されたものだと言える。

結局、いかにも表層的に「うまい」と表現される選手ばかりを輩出する育成現場の考え方を変えない限り、いくら代表監督を代えてもピッチ上に活気は生まれてこない。(了)


加部究(かべ きわむ)
スポーツライター。ワールドカップは1986年大会から6大会連続して取材。近著に「大和魂のモダンサッカー」(双葉社)「忠成〜生まれ育った日本のために」(ゴマブックス)など。