ベルリン市内の東に位置するブンデスリーガのクラブがある。1. FC Union Berlin。1.FCウニオン・ベルリンと読む。市内西側に位置するヘルタ・ベルリンとは違い、ブンデスリーガ1部で戦った経験はないが、野太い声で歌う熱狂的なサポーターは、ドイツでも有名だと聞かされていた。

 2月26日金曜日。
 シュタディオン・アン・デア・アルテン・フェルステライへ出かけた。ジュビロ磐田から昨季ブンデスリーガ2部のカールスルーエへ移籍した山田大記のベルリンでのプレーを見ることが一番の目的ではあったが、ウニオンのホームスタジアムの雰囲気にも興味はあった。

 ベルリン東地区の中心地であるアレキサンダープラッツから、電車やトラムを乗り継いで1時間。車内はそれほど混みあってはいなかったものの、スタジアムの最寄駅に到着するとたくさんのサポーターがそこにいた。目指すスタジアムの姿は見えるが、そこへ向かうためには真っ黒な森の中を歩まなければならない。少しドキドキしながら、サポーターのあとについて、スタジアムをめざした。

 改修工事が進められているスタジアムの外観は新しい。しかし、歴史を感じさせる風情が漂い、チームカラーの赤がポイントとして生かされていて、高いデザイン性がおしゃれだった。収容人数は2万人を切るこじんまりとした作りは無駄がなく、プレスルームや動線も機能的。アットホームな空気をそのスタジアム自体が演出しているようでもあった。

 キックオフを前にウニオンのサポーターの歌声がこだまする。そして、スタジアムにいる全員がタオルマフラーを掲げているような迫力で選手たちを迎える、しかし、選手入場時に合わせたかのように、アウエイエリアを埋めたカールスルーエのサポーターが青い発煙筒を炊く。青い煙がピッチ上を覆うなか、試合が始まった。

<カールスルーエの先発>

 山田は左MFとして先発出場している。2列目が彼の定位置だが、試合によって真ん中を務めることもあるようだ。

 文字通り身体をぶつけ合うような激しい試合は、両者に決定機がなく、時計の針が進んだ。31分、右からのクロスボールに山田が飛び込み、脚を投げ出すように放ったシュートがゴールネットを揺らした。アウエイでの先制ゴールとなったが、前半終了間際、相手のボールホルダーへの守備に人をさいたために生まれたスペースへパスを出され、同点弾を決められてしまう。
 そして後半開始早々の47分、山田へのファールで相手選手が2枚目の警告で退場。カールスルーエは数的優位な状態に立った。

 昨季、ブンデスリーガ2部でデビューを飾った山田は、前半戦で6得点をマークし、チームの昇格争いを牽引したが、後半戦は無得点。カールスルーエは3位でフィニッシュし、1部のハンブルガーSVとの入れ替え戦に敗れて2部残留となった。
 第24節を現地で観戦したが、そのときも山田へのファールで相手選手が退場している。柔らかい山田のプレーが屈強な選手たちを苦しめている様は見ていても痛快だった。しかし、その試合も0−0と引き分けてしまい、山田は試合後、決定力不足を悔やんでいた。

 そして約1年がたったベルリンでも、カールスルーエは数的優位な状況を活かせず、逆にウニオンの逆転を許してしまい、試合終了。
 対戦前の順位がカールスルーエが9位で、ウニオンが11位だったが、23節終了時点で勝ち点で並び、得失点差でウニオンが9位に浮上し、カールスルーエは11位に後退。昇格入れ替え戦圏内の3位ニュルンベルクとの勝ち点差は11点と開いた。

 今季は怪我もあり、開幕戦には間に合わなかった山田だが、3節以降は試合出場を続けていた。しかし、得点がなく、この日ベルリンで決めたのは今季2得点目だった。

 2月7日のリーグ後半戦開幕戦となる第20節を欠場し、21節に先発復帰するものの途中交代。22節も同様だった。そして迎えた23節でのゴールだった。

「怪我明けからだんだん動けるようにはなってきた。この間まではやはり少し違和感が残っていて、怖さもあったけれど、それが無くなり、今日は入りからそういう怖さがなくてよかった。ただ、前の試合ではミスが多くて、自分のミスで、自分のリズムを崩してしまうようなところがあった。だから、狙って点を獲りに行くというよりは、ミスをしないことを意識していた。ただ、監督からは、チーム全体に対して、『シュートを打ったか?』ということを言われてもいました。だけど、僕は最低限のところでミスをしないということで、試合に使ってもらっていると思うので、まずはそこを意識していた」と自身のプレーを振り返った。

「今年に入って負けていなかったし、今日の試合の重要性は選手みんなが理解していた。相手が激しくくるのもわかっていたから、綺麗にというよりも泥臭く闘うことになると思っていたし、それで、泥臭いゴールが決められたのに、前半の終わりでの失点は形も時間帯も悪かった。でも、相手が退場して、アウエイではあっても優位な状況になったのにそれを活かせなかったのは、すごく残念な結果。引き分けで進んでいて、最後に点を取りに行って前がかりになり、失点して勝ち点3を取りにいったのにゼロだったというなら、まだ仕方がないけれど、3がとれる内容。流れだったのに……という風に思う」

 残り11試合。3位のニュルンベルクの勝ち点が41。14位のFSVフランクフルトの勝ち点が27と混戦模様ではあるが、昇格を目指すためには勝ち点3を失うことの影響は大きい。

「数字上とはいえ、昇格の可能性があるのだから、そこは目指して行きたい。とはいえ、可能性が低いのは事実。今季はチームに何も貢献できていないから、歯がゆい時間を過ごしている。だから、自分のなかで『貢献できたな』と思ってシーズンを終わりたい。僕はいつもモチベーションは変わらないから」と話す山田。

 プロの世界ではよく“2年目のジンクス”と言われるが、カールスルーエで2シーズン目の山田はどんな風に考えているのだろうか?

「2年目のむずかしさというか、昨季の後半半年がその2年目みたいに全然勝てなかった。そこからここまでの1年間は、自分の中でちょっとネガティブになることもあった。ドイツで、『ここは通用しないのかな』と考えたりして。フィジカルも全然違うから、ドリブラーとしてはちょっとなかなか難しい部分もある。相手を置き去りにできないし、抜き去ろうとしたらガツンと当たられちゃうし。そういうところで限界が見えて、自分のなかで、出来ないところ、ダメなところが目についてしまうことが多かった。でも、最近はそこを乗り切れた。そういう1年だったので。

 まだまだ、出来ていないところはたくさんあるけれど、精神的には超えられた気がしている。そして、自分はもっとやれると改めて思えた。これから、自分がどのように変わっていくのかっていうのもある程度のイメージも出来ているから。どうすればもっと上のレベルでやれる選手になるのか? そのためにどうすればいいのかと、改善できる部分を意識できるようになった」

 落ち着いた口調で、自身を冷静に語る山田は1年前の彼とは違って見えた。移籍の高揚感を経て、刺激が日常になったからこそ感じる壁。それを乗り越えようと苦闘したからこその言葉には熱が漲っていた。
 

[取材・文 寺野典子]