日本サッカー協会の原博実強化委員長はtwitterにアカウントを持ち、じかにサポーターと意見交換するなどオープンな姿勢を見せているが、先日、原氏のある“つぶやき”が物議をかもした。
「世界基準に合わせて、昨日のJリーグ(開幕)から手の不正使用を厳しく取るようになりました。皆さんはどう感じていますか? 月曜に審判部の人と話すので率直な意見待っています。」というエントリーだ。
そのエントリーを見たサポーターから続々と意見が寄せられ、本人もびっくりするほどの反応だったという。

私も『週刊審判批評』というブログを持っているが、アクセス数が伸びるのは誤審疑惑が起きた試合後だ。その順位は300位前後からいっきに10位以内となる。
しかし、今回原氏が投げかけた「手の不正使用」は、開幕節で誤審など大きな判定があったわけではない。それでもここまで注目を浴びたというのは、サポーターが誤審並みのストレスを感じているのを物語っている。

そんな世論を受け、原氏は、
「現場関係者、皆さんからの意見が多かった手の使用に対して笛を吹きすぎる。球際の激しいやりとりが少なくなり、むしろ世界と離れてしまう。と審判部の方に伝えました。CKとFK時の手の不正使用は明らかに減った事。全試合しっかり検証し、皆さんの意見も参考にしますとの事でした。」
と締めくくった。

しかし、これは現場の審判員からするとクエッション以外のなにものでもない。というのも、「手の不正使用にしっかり笛を吹く」というのは、技術委員会側からアプローチしてきたものだからだ。また、鹿島のオリヴェイラ監督も、昨シーズン、ホールディングをしっかり取るように審判側に訴えている。
「手の不正使用」は審判側からの押し付けではなく、JFAテクニカルニュースに記載されているように、技術側と審判側が「世界で勝つために」を合言葉にスタートさせたものなのだ。
にもかかわらず、開幕して1試合のタイミングで原氏、さらには日本代表の岡田監督が基準を否定するような発言をしては、現場の審判員たちが槍玉に挙げられてしまう。

J1担当審判員たちは「手の不正使用」をなくすため、開幕前に完璧な準備を行っていた。主審だけでなく、新たにトップレフェリーインストラクターに就任した廣島禎数氏も、副審にホールディングをしっかり取るように厳しい指導を行うなど、そのトレーニングは昨シーズンの課題を克服できる内容であった。

もちろん、その時に私もサポーターの方々と同じように違和感を覚えた。ホールディングをしっかり取ることで、試合がすぐに止まってしまうのではないか、タフなプレーが少なくなるのではないかと。しかしそんな疑問に対し、上川徹トップレフェリーインストラクターは解決策を教えてくれた。
「もちろん、前を向いてプレーする意思を見せる選手にはアドバンテージを適用します。昨シーズン、アドバンテージの適用はまだまだ足りなかった。今季はアドバンテージも重視します。ただ、選手が相手を背負った状態でその相手にホールディングされていれば、ファウルにします。その時はクイックスタートしてもらえれば」
私はこれこそが“球際のやりとり”を減らさない解決策で、原氏がインフォメーションすべきものだったと思う。

海外の選手の多くは、その審判の基準に合わせてプレーする。ホールディングで試合が止まるのならば、ホールディングしなければいい。止めてほしくなければ、前を向いてプレーする意思を見せればいい。選手自身で解決できる問題でもあるし、実際に海外の選手は審判それぞれの基準を見てくると国際審判員たちは言う。
世界を目標に掲げながらも、慣れない判定があるとすぐに審判に基準の変更を求めては、いつまでたってもタフな選手は生まれない。もし選手が審判に要求するとしたら「アドバンテージでプレーを続けさせてくれ」ではないだろうか。
現に、ホールディングを取りすぎると言いながらも、開幕したJリーグでは、選手が審判にファウルをアピールするシーンが多々ある。

現在、日本から世界で通用するDFは出ていないし、むしろ欠点としてCBがあげられている。ホールディングに頼る守備では世界に通用しないということではないだろうか。そして、強いDFがいないから、FWも育たない“負のスパイラル”が生まれている。
タフなプレーの象徴でもあるプレミアリーグからトップレフェリーインストラクターとして招聘されたアラン・ウィルキー氏は、以前インタビューに応じてくれた際、タフさばかりの質問をする私に、「撲滅しなければいけないのはホールディング」と投げかけてきた。

『改革に痛みは伴う』とソニー創業者の井深大氏は語っている。ホールディングにしっかり笛を吹くことで、最初は慣れないため、試合が止まってしまい、タフなプレーが減るという痛みを伴うかもしれない。しかし、選手の意識、審判のアドバンテージの技術で充分に乗り越えられる。
世界に通用する選手を育てるために。この改革の痛みにもう少し耐えることが必要なのではないだろうか。(了)


石井紘人(いしい はやと)

某大手ホテルに就職するもサッカーが忘れられず退社し、審判・コーチの資格を取得。現場の視点で書き、Jリーグの「楽しさ」を伝えていくことを信条とする。週刊サッカーダイジェスト、Football Weeklyなどに寄稿している。