「長い間休んでいたんだから、時間がかかるのはしょうがない」

「ここはいいスタジアムだよね、今日なんて4分に退場者が出て10人になったけど、(スタンドを埋めた人たちは)本当に12人目の選手だった。ファンじゃないサポーター。選手は戦えるし、走れるよ。最後はやられちゃったけど。本当にいいスタジアムのチームに居させてもらえているなって思う。入団前に1度見に来て、いいスタジアムだなって思ったけど、やっぱり日を重ねる毎にその思いが強くなるよ。苦しいときに助けてくれるなからね」

 開始4分でセンターバックのナルドが一発退場。それでも、守備を固めながら粘り強く戦ったシャルケ。89分に失点し、敗れてしまったものの途切れることなく、歌い、手を叩き、コールをおくり続けたサポーターを内田篤人が称えた。

 12月8日ヨーロッパリーグ対ザルツブルグ戦で83分に途中出場し、1年9カ月ぶりに公式戦復帰を果たした。消化試合ではあったが先制点を許した状況での起用。「長いリハビリを頑張りましたっていう、ご褒美みたいなものだけれど、監督には感謝している。次の目標はホームのフェルティンス・アレーナでプレーすること」と話していた。

 しかし、この日の試合はベンチ外だった。
「この前の試合は消化試合だったし、メンバーもだいぶ変わっている中で、ある程度チャンスを貰えるかなとは思っていたけれど、今日みたいに誰かがすぐに退場したり、怪我をしたときに、『お前90分ちゃんとできるのか?』って言われたら、『いやまだ10分しかやってません』っていう状況だからね。そこらへんはわかっているけど、早く出たいっていうか、時間がね、やっぱり、もどかしいなとは思う。監督がどういう風に使おうと思っているのかは、監督の考えだから。長い間休んでいたんだから、練習も含めて長い期間プレーしないと次へは進めないのかなとも思う。だから、少しずつ少しずつ。時間がかかるのはしょうがない」

 過去にも期間は短くとも怪我で離脱した経験はある。もちろん、今回ほど離れていたことはないわけだから、慎重にという想いになっているのだろうか?
「今までと全然違うのは、監督をはじめ、スタッフのなかに、俺のプレーを知っている人がいないこと。今までだったら、ドルトムント戦が復帰戦だったり、すぐに90分出てくれと信頼されて使ってくれた。でも、今回は監督だけじゃなくて、選手も俺のことを知らないからね。そういう意味では連敗しちゃったけれど、チームも調子も悪いわけじゃないから、変な話『急ピッチで上げてくれ』という感じではないので。だから自分に流れが来ていないぶん、ちゃんとコツコツやれるのかな。自分としては早く出たいけれど、焦る必要にない状況だからね。今までは『すぐに出来る』って言っちゃうタイプだったけど、それは絶対間違っているから。今までもシャルケのドクターやトレーナーには『待て、待て』としか言われてこなかったから。ゼロか100みたいな感じだったからね、俺は」

 身体に痛みがあっても「行けるか?」と言われて、「行けません」と言ったことがない内田。最後の公式戦となった2015年3月10日のチャンピオンズリーグ、レアルマドリッド戦後には、歩くのも困難なほど、右膝が曲がらず、痛みだけではなく悪化していた。にもかかわらず、3月下旬の日本代表戦で2試合に出場したのも、就任したばかりのハリルホジッチ監督の要請に応えたからに違いない。


「生き急ぐ、死に急ぐじゃないけど、そんな感じでやるつもりだよ。細く長くなんて考えてない」

 2009年の鹿島アントラーズ時代から、右膝の異常はあった。今回の右膝蓋腱の負傷は、長年の“無理”が積み重なった結果とも思える。長く所属チームだけでなく、代表でも活躍し、シャルケへ移籍してからは、UEFAの大会にも出場。過密日程でも手を抜くことができず、すべてに全力を出し切ってきた。

「すべてにエンジンを吹かしまくる必要はないんだよ」とシャルケのスタッフが何度もそう声をかけたが、納得はできなかった。「痛みのない身体で試合に出ることなんて、ほとんどないよ」と語っていたこともある。痛みがあれば、まずはそれを取り除くことを優先させる欧州において、内田の存在は異質に映ったかもしれない。しかし、それが内田篤人なのだから、しょうがない。

 それでも、1年9カ月という空白時間を経験したことで、内田自身のスタンスに変化が生まれたのだろうか? ここまではしゃかりきに走ってきた。これからのキャリアはどう生きていくのか?
「自分で怪我をして、自分で長引かせて、本当に無駄な1年9カ月だった。シャルケのドクターにも『俺は(内田が)復帰できるとは思わなかった』と言われたからね。そういうところから、やっと復帰できたんだから、ベンチだ、スタメンだって贅沢は言わず、競技を長く続けてけられることをありがたく思わなくちゃいけない」

 ザルツブルグ戦後、そう語っていた内田。わずか10数分間だったとしても復帰することができた。その夜はジャージ姿でミックスゾーンに現れた内田に “やっと戻ってきた”という歓びで十分だった。彼の“これから”を追求するのはまだ早いような気がしたのも事実だ。

 しかし、レバークーゼン戦後、セーターに同系色のマフラーを巻き、少しシックな装いで現れ、落ち着いた様子の内田に、「1年9カ月のリハビリを経て、自分のスタンスやキャリアへの意識に変化は生まれたか?」と訊いた。即答に近い形で、彼が答える。
「いや、もう俺、生き急ぐ、死に急ぐじゃないけど、そんな感じでやるつもりだよ。細く長くなんて考えてない。もう行けるところまでいくよって感じ。やっぱ、こんだけ(リハビリ期間が)長いと、いろいろ考えることもあったけど、やっぱり、時間が惜しいなと思う。サッカー選手は(現役でやれる時間が)少ないから。しかも、選手として一番良い年齢、身体も動いて、経験も培ってという、サッカー選手のピークは27、28、29だと思う。俺はそれを逃したから。この先でそれを取り返したいし、そのためにも今以上にやっていかないと、やる意味ないなと思う」

 より一層貪欲になっていた。しかもその想いを隠そうともしない。
「怪我が怖くてとか、ここで無理をしたら、次、ないなと思って、こそこそサッカー選手をやっていくなら、ここまで頑張って来た意味ないからね。1年9カ月頑張ってきた意味がないから。いや、無理してでもがんがん行くよ、俺は」

 別の記者から質問が飛ぶ。「常に終わりを意識しながらやっていくということですか?」と。
「サッカー選手の終わりについてはすごい、考えたね。この怪我もありましたし。サッカー選手が引退する時にね、引退の仕方とか、引退する時の周りの反応とかって、そのサッカー選手のサッカー人生を映し出すと思うから」

どんな質問をすべきか、息を飲むように記者たちが押し黙る。そんな空気を察したのか「ってなんか、サッカーやめる話になっちゃったね」と内田が笑った。


「俺、紅白戦外されると、そうとう不満気な顏してる。スタッフから見たら、超イヤなヤツだと思うよ」

 今季シャルケは日本でいうところの強化部長、GMにあたるスポーツダイレクターが代わった。内部昇格ではなく、マインツで活躍していたアクセル・シュスター氏が就任。監督だけでなく、多くの選手が入れ替わり、スタッフの顔ぶれにも当然変化があった。前記したように内田が「僕のことを知らない」と語ったのには、そんな理由がある。現在3バックを採用していることでも、シャルケは大きく変わった。

「自分がちゃんとプレーをできれば、試合に出れると思ってる。上から(試合を)見ていて、俺もうちょっとできるようになるって思ってるから、俺がちゃんと身体作れて、前のようにプレーできれば、出れるとは思う。そこを監督に認めてもらう時間と、俺が身体を作り、ちゃんと戻すための時間が必要だから。でも、俺は別にゆっくりやるつもりはないから、急ピッチでやっていく。ガンガンやるけど、時間はかかる。それでも最短は狙うよ、いつでも行けるようにする」

 言葉にすれば、容易に思えるかもしれないが、“いかに”作り、“どんなふうに”戻し、そして、監督に認めてもらうかという過程は、微妙で繊細な時間の積み重ねが必要になるだろう。
「監督やスタッフは俺のスタンスを理解してはいないと思う。監督ともほとんどしゃべってないし、練習に合流したけど、紅白戦で外れるからね。まだ怪我というイメージは払しょくできていないと思う。細かいニュアンスを伝えられるのは難しいし、もともとの俺のベストのコンディションがどれくらいなのかも知らないだろうし、変な話、『コンディションが上がってないじゃん』と言われようもない。比較できないだろうから。本当に監督とか、スタッフとか、上の人が変わるというのは結構、選手としては影響があるなって思う。もちろん、自分がずっとプレーできていれば、問題はないんだろうけれど。今回は『はじめまして』みたいなものだからさ」

 現在の状況は、移籍加入してきた当時と同じだとも話す。
「まずは紅白戦に復帰するところからだね。でも、俺、紅白戦外されると、そうとう不満気な顏しているけどね。スタッフから見たら、超イヤなヤツだと思うよ。『こいつ、長い間休んで、ちょっと外れたくらいでイヤな顏すんなよ』みたいな。もちろん俺もわかっているよ、すぐにできるわけじゃないって。『こいつ、ふて腐れている時間もないだろう』って思われるんだろうけど。伝わることが大事だから。『こいつやれるって気持ちなんだな』って、その態度で、わかってもらえたらいいから」

 消化試合であってもピッチに立った。小さな一歩だとしても、前へ踏み出せたことで、自信が芽生えているのがわかった。3日前とは違う内田の姿がそこにはあった。彼もまた小笠原満男のように(敵にとって)厄介なベテラン選手になりそうなそんな気持ちになる。

【取材・文 寺野典子】