第6回 「10月30日、首位札幌に勝った日」  文・山雄樹


熊本地震に負けず、J2残留を決めたロアッソ熊本。シーズン終盤、首位北海道コンサドーレ札幌を相手に挙げた勝利は、残留に近づく、そして、クラブの理念である「県民に元気を」「子ども達に夢を」「熊本に活力を」届ける大きな勝点となった。その試合を振り返りたい。

「めっちゃ楽しい試合!」
10月30日(日)にホーム・うまかな・よかなスタジアムで行われた明治安田生命J2リーグ第38節、ロアッソ熊本対北海道コンサドーレ札幌。勝点40で18位のロアッソが、勝点78で首位、早ければ、この次の試合でJ1昇格(自動昇格の2位以内)が決まるという札幌を迎えての一戦だった。

この試合に合わせて、「くまもとサッカーフェスタ」と銘打った年に一度のイベントが行われた。「ロアッソ熊本をJ1へ」県民運動推進本部という県体育協会や県サッカー協会が中心となって2009年に設立された団体(前身は2004年12月に発足した「熊本にJリーグを」県民運動推進本部)や、県サッカー協会、ロアッソの運営会社アスリートクラブ熊本、地元新聞社の熊本日日新聞社がつくる「みんなで行こうJ実行委員会」が主催し、私が勤務する熊本放送も協賛社に名を連ねている。

このイベントは今年で10回目を迎える。県内の自治体が制作したゲートフラッグが飾られたり、県内各地のマスコットキャラクターが集まってパフォーマンスを披露したりして、スタジアムは、楽しげな空気に包まれる。

そして、今年は、「復興支援企画」として、熊本地震で特に大きな被害を受けた7町村(大津町・南阿蘇村・西原村・御船町・嘉島町・甲佐町・益城町)の住民が無料招待された。

「めっちゃ楽しい試合!」という言葉は、招待チケット受け取りブースで、話をきいた男子児童の言葉である。大津町から来たという父、母、児童2人の4人家族に「きょう、どんな試合をしてほしいですか」とたずねたところ、その男子児童が周囲に響き渡るほどの大きな声で、少し飛び跳ねながら、答えてくれたのだ。

招待チケット招待チケット(写真)は、県立御船高校美術コースに通う3年生の生徒が「熊本が復興に向かう姿」をテーマに描いたもので、宮村海斗さんのデザインは、チームカラーの赤を背景に、天を向いた4頭の黒い馬の影が描かれている。ロアッソのエンブレムに使用されている馬、その上方には、太陽をイメージした大きなサッカーボール。松原紀香さんは、熊本のシンボル熊本城を背景に、野原でサッカーボールを笑顔で懸命に追う少年を描いた。この高校生達も含め、ロアッソに関わるそれぞれが、それぞれの立場で、復旧、復興への願いを表現しているのだ。


この試合の翌日には、二度の震度7を記録した益城町で1か所だけ残っていた益城町総合体育館の避難所が閉鎖された。4月16日の本震の翌日、17日に1歳の子どもを抱える母親が、涙ながらに、テレビの中継リポーターである私の取材に答えてくれたことや、4月26日に、ロアッソのOBでスカパー!Jリーグ中継の解説をつとめる松岡康暢氏(福岡のMR12サッカースクールコーチ)達とともに、避難生活を送る子ども達と一緒にボールを蹴ったことが鮮明に思い出される。皆が、一日も早く、安心、安全に暮らせるように願うばかりだ。これで、熊本県内に残る避難所は2か所、避難者数は4人になった。そして、11月18日午前、県内で最後に唯一残った西原村の避難所に身を寄せていた2人の女性も、新しい住居が見つかり、退去。県内の避難所、避難者数は0となった。4月16日の本震が発生した翌日の、4月17日午前9時には855か所で18万3882人が避難所生活を強いられたが、そこから7か月がたち、ようやく住まいの目途が立ったのだ。
 
試合3日前の練習公開日(今シーズン、ロアッソは試合前日、前々日と非公開練習になることが多かった)に、あらためて益城町出身のGK畑実、MF上村周平、MF嶋田慎太郎に、熊本地震発生から半年以上が過ぎた現状や思いを聞いた。

27歳の畑は、実家が全壊、それでも補強工事を施せば、住める状態に戻ると言う。今は、両親、祖母、姉、妹と家族6人、益城町に隣接する菊陽町の「みなし仮設住宅」(民間による既存の賃貸物件を県が借り上げて被災者に提供)で生活している。「復興には時間がかかる。起きてしまったことを悔やむより、前に進むしかない。いつも通りの生活をして、練習や試合に臨むことが大事だと思う。解体工事が進み、建物がなくなり更地が増えたことで、遠くの景色まで見えて、寂しい気持ちになることもあるが、悲観的にならず、前に進んでいるととらえている」と語った。身長193cm、「気は優しくて力持ち」という言葉がぴったり似合う畑だが、その言葉は力強かった。
 
ジュニアユースからロアッソ育ちで、今年21歳になる上村と嶋田。上村は「実家は一部損壊(の被害にとどまった)、自分は何不自由なく生活できている」と申し訳なさそうに話し始めた。そして、「この前、鳥取で起きた地震(10月21日・鳥取県中部地震)も他人事とは思えなくなった。自分のこととして考えるようになった」と自らの変化を語る一方で、「倒壊した建物の中で一軒だけポツンと明かりがついているのを見ると、何とも言えない気持ちになる」と、ともすれば「大人しい」と受け取られがちな優しい性格そのままに、変わらぬ心の痛みをぽつりぽつりと話したのだった。

嶋田の実家は大規模半壊の判定を受け、解体を余儀なくされた。両親は、熊本市内の「みなし仮設住宅」で暮らしている。嶋田が小学生時代に所属していた益城町の「F.C.BIGWAVE」というクラブの練習グラウンドには仮設住宅が建った。嶋田は「グラウンドは、いろいろなことを教わった場所。残念だが、もっと困っている人達がいる。いつか元に戻ったら良い」と話す。さらに、「家族のために頑張ること、家を建てるということもモチベーションになります」ときっぱり言い切った。試合中の、レフェリーや相手選手との激しいやり取りから「やんちゃ坊主」というイメージを持たれがちな嶋田だが、一方では、とんでもない口下手で、2年前のシーズンオフに、私が司会をつとめ、RKK熊本放送で放送しているロアッソの応援番組「VIVA!ROASSO RADIO(ビバ!ロアッソラーディオ)(毎週月曜日午後9時〜)にゲスト出演した時には、あまりの口数の少なさにディレクターが冷や汗をかいたこともあるほどだ。その嶋田や上村が、熊本地震をきっかけに逞しくなっていく姿を見たり、前向きな言葉を発するのを聞いたりすると、大げさな表現ではなく、涙が出るほど嬉しい。

 
ホームに首位札幌を迎えた第38節、この一戦には7880人が訪れた。7000人を超えたのは、7月3日、熊本地震の後、初めて、ホーム・うまかな・よかなスタジアムで行われた試合、第21節セレッソ大阪戦(9322人)以来10試合ぶりである。

ロアッソは、第34節アウェイでのレノファ山口戦以来5試合連続でスタメンに起用されている、スピード自慢の右WG齋藤恵太を中心に、札幌のDFラインの背後や3バックの脇のスペースを突いていく。前半10分、札幌GKクソンユンからのGKをボランチの村上巧がヘディングで跳ね返すと、相手陣内中央で齋藤がセカンドボールを拾い、CF平繁龍一とのワンツーから一気にペナルティエリア内へ。「龍君(平繁)から、『俺にボールが入ったら、背後に抜けて欲しい』と言われていたので、まず、そこを意識した」という齋藤の言葉通りのプレーで、札幌のCB永坂勇人と増川隆洋の間を真っ二つに割った。齋藤が、たまらず背後からタックルを仕掛けた永坂に倒され、PKを獲得。「自信がある人が蹴った方がチームのためになる」と齋藤は、ここまでチームトップの10ゴールを挙げているエースストライカー清武功暉にキッカーを託す。「大きな拍手に包まれました、うまかな・よかなスタジアムです。前半の11分。(レフェリーの笛〜清武のキック)決めていきました。熊本が先制しました。清武のPK」(スカパー!Jリーグ中継での私の実況アナウンス)

冷静にゴール右隅に流し込んだ清武。ロアッソのJ2ホームゲーム通算200ゴール、記念のゴールとなった。「龍君(平繁)と恵太(齋藤)がしっかり崩してくれた結果。自信があったので、恵太に『俺が蹴る』と言った。落ち着いて蹴ることができて良かった。狙いと言うよりも、落ち着いてあのコースに蹴るということだけを考えて蹴った」と清武は、ゴールシーンについて語った。
 
追加点は後半20分、左サイド深い位置で、起点を作ったロアッソ。コーナーアーク近くで清武がボールを収める。「さあ、清武、突破した。もう一度片山へ。中、4枚待っている。クロスが入る。決まりました。熊本2対0、平繁。素晴らしいヘディングシュートでした。コーナーフラッグのところに行きました、平繁」(スカパー!Jリーグ中継での私の実況アナウンス)清武のサポートに入った左SBの片山奨典が利き足の左足でクロスを供給、ニアサイド、ヘディングで合わせた平繁。ボールは右のポストに跳ね返り、ゴールイン。巧みなヘディングシュートだった。

「ああいう形のゴールは何回かあるし、すごく得意な形でもあった。片さん(片山)からすごく良いボールが来たし、相手のマークもうまく外せていた。ただ、ちょっと角度がなかったので、当て過ぎないようにして、うまく流し込めた」と平繁はファインゴールを振り返った。右手でコーナーフラッグをつかみ、両腕を広げた平繁。サンフレッチェ広島時代の先輩FW佐藤寿人直伝のガッツポーズだ。その後は、サブのメンバーも含めて、もみくちゃにされた。

貴重な追加点をアシストした片山は、ホームゲームでは、9月7日の第9節延期分横浜FC戦以来4試合ぶり、およそ2か月ぶりのスタメンだった。「このスタジアムが好きなので、思い切り楽しもうと思って頑張った。自分のサッカーキャリアの中でここが一番長い(ロアッソ加入7シーズン目)ので愛着がある。サイドを駆け上がると、すごく歓声をくれるので、すごく背中を押してくれるところが好きで、苦しい時でも、ここ(うまかな・よかなスタジアム)に帰って来たら、何とか立て直せるという気持ちにさせてくれるスタジアム」とホームで自身が勝利に貢献できたことを喜んだ。

首位札幌に、2対0で勝ったロアッソ。勝点は43、順位は3つ上がって15位となった。
ホームゲームでの勝利は、8月14日の第29節ジェフユナイテッド千葉戦(3対0)以来、実に7試合ぶり、2か月半ぶりとなった。この試合、後半29分から途中出場し、相変わらず前線で体を張り続けた巻誠一郎も「いつも支えて下さる方々や、いまだに熊本の中で普段通りの生活を取り戻せない方々にとって、少しでも活力になったらいいなと思う。実際は、どうなっているかは、わからないけど、僕らはそういう思いでプレーしているし、これからもプレーしていきたい」と少し謙遜しながら、会心の勝利に満面の笑みを浮かべた。巻は、今も時間さえあれば、小学校などを訪問し、サッカーを通した交流を続けている。「これからは仮設住宅にも行きたいんですよね」と話す巻の復旧、復興への思いは依然、強い。

ロアッソのホームスタジアム・うまかな・よかなスタジアムは、熊本地震の後、急ピッチで安全確認を進め、まずメーンスタンドの1万0058席の使用が許可された。さらに、8月31日に行われた第11節延期分愛媛FC戦からサイドスタンド、いわゆる「ゴール裏」のスタンドが一部、使えるようになり、1万8393席に使用可能範囲が広がった。コールやチャントなどの応援歌を歌い、飛び跳ね、まさに全身全霊でチームを後押しする熱狂的なサポーターが陣取る「ゴール裏」のスタンドで応援ができるようになって、この試合で6試合目。ここまでの5試合は3引き分け2敗と勝利がなかった。ついに、その場所で勝利の儀式「カモン!ロッソ」が行われた。「カモン!ロッソ」というチャントに合わせて、ファンやサポーターが一緒になって踊った。熊本地震発生前、3月13日の第3節東京ヴェルディ戦(1対0)から、7か月半ぶり。文字通り、待ちに待った瞬間だった。皆が笑っていた。

私がゲームを実況する放送席はスタジアムの最上階、7階にある。スタジアム全体が見渡せる。やはり、赤く染まった「ゴール裏」を見るのは、良いものだ。それが、歓喜の場所となれば、なおさらだ。そして、あの少年の言葉を思い出していた。男子児童が言った通り「めっちゃ楽しい試合!」になったはずだ。


◇著者プロフィール:
山雄樹(やまさき ゆうき)
熊本放送(JNN・JRN)アナウンサー。1975年(昭和50年)6月16日、三重県鈴鹿市生まれ。立命館大学産業社会学部を卒業後、1998年熊本放送入社。主にスポーツの中継アナウンスや取材、番組制作を担当。系列のアナウンサーの技量を競う「アノンシスト賞」では、「テレビスポーツ実況」部門で二度、「ラジオスポーツ実況」部門で一度、九州・沖縄ブロック審査で最優秀賞、2015年度は、全国審査で優秀賞を受賞した。
 チーム発足時からJ2ロアッソ熊本の取材や応援番組の司会を続け、2008年のJ2参入以降は、スカパー!Jリーグ中継でホームゲームの実況をつとめる。