ヨーロッパでの取材を始めて1週間が経った。
4試合を観戦し、現地で長期に渡り取材する記者の方からいろいろな話を聞かせてもらった。もちろん選手たちの話も聞いた。そこで感じるのはクラブチームの進化の速さだ。進化ではなく変化に留まっているチームもあるけれど、現状に満足するのではなく、常に新しい選手、新しい戦術にトライし、停滞を嫌う空気を強く感じる。積極的に新陳代謝を促す土壌がここにはある。

そういうサッカー界において、日本代表の歩む速度が気にかかる。
「アジア諸国は急速に成長している」と田嶋会長はいうけれど、成長の可能性が最も高いのは日本であってもまったく不思議ではなかったはずだ。次々と欧州へ挑戦する選手がいて、組織としてのキャリアや実績もあり、国内リーグの成熟度はアジアの他国を圧倒的に引き離している。
にもかかわらず、なぜ、これほど強い停滞感を抱いてしまうのだろう。

まずは、自分の正当性を主張する指揮官
だから現状説明が言い訳に聞こえる


9月29日。英国レスターからドイツのゲルゼンキルヘンへの移動中に、ハリルホジッチ監督の会見テキストを読んだ。いつか「今日は良い材料が揃わなかったので、店、開けられません」みたいなことになったら面白いなぁと不謹慎にも思ってしまった。

クラブの監督に比べたら、代表監督には豊富な材料からの選択肢があるはずだ。しかし、代表監督は、クラブの監督のように自分で素材を作ったり、養殖したり、育てる時間はないし、収穫や狩りに出かけることもできない(帰化という方法はあるけれど)。それは、日本代表に限った話ではなく、すべての代表監督に共通すること。だからこそ、引き受けたからにはある材料で、満足できる皿を作ってほしいのだ。

しかし、今回の会見でも監督の話の中心は、いつもと同じ。クラブでの出場時間、移動距離、時差から来る主に欧州組の選手個々のコンディションの問題。そして、共に練習する時間の少なさなどなど。目の前に積み上がる課題が山積しているせいで、どうも今の日本代表を取り巻く環境は「木を見て森を見ていない」感じに陥っているように思えてならない。それはチーム関係者だけでなく、私自身も同じだなと思う。

「大迫はここ3試合先発で出場し」と監督は話したようだが、「実際は4試合なのに」とか。そういう細
かいことが気になるのは、「追跡をしている」「おっかけている」と、監督が詳細にスカウンティングしていることを繰り返し、胸をはるのも原因だろう。実際、彼が強調するスカウティング量が多いのか少ないかのかもわからない。こちらの勉強不足でもあるだろうが、そもそも他の指揮官はそんなことを誇示しなかったから。

ハイプレッシャーに晒された監督はとにかく細々とした話を持ち出す。だから、こちらも言葉尻を捕まえてしまうのだ。監督は状況説明をしているつもりなのだろうが、ほとんどすべてがネガティブな話。だから、“それが言い訳だ”とこちらは自然と感じてしまう。

フランス語における“言い訳”と、日本語のそれとは意味が違うのかもしれないし、人種や国民性や習慣の違いもあるだろう。どんな状況であっても、まずは最初に自身の正当性を示そうとするのは、日本人にはあまり馴染がないから、監督の姿に「弱い犬ほど吠える」という言葉を思い出してしまう。
Jリーグの現状やそれを変えたいという熱意はわかるし、彼の見解は間違ってはいない。けれど、自身の主張を強調するあまり、日本の歴史や環境への配慮が欠如し、敬意のかけらも持ち合わせていないのではないかと感じてしまう。批判めいた言葉だけが残ってしまうのは残念な結果だ。

「代わりの選手がいない」は苦言じゃない
ハリルホジッチ監督は日本人を理解できているのか?


そして、なにより今日も引っかかったのは「代わりの選手がいない」という発言だ。彼が「代わりの選手がいない」と公の場で繰り返すのは「日本サッカー界を変えたいからあえて言う苦言」ではないと思う。苦しい台所事情は誰もが理解している。日本人は1対1の決闘(デュエル)に弱いのもわかっている。国内組と欧州組との格差が広がっている現実も知っている。

「代わりの選手がいない」のは、やはり敬意を欠いた発言だ。純粋だとかストレートな性格だとかは関係ない。その言葉がどういう影響をもたらすのか、上に立つ人間としてもう少し考えてほしい。「チャンスはある」と言われても現在の日本代表のドアは閉ざされた状態だ。せめて「今は」とつけるだけでも印象は変わる。このあたりのことは通訳者の配慮で変わるはずだが、そういう心配りが足りない。
指揮官は自身の経験をもとにその考えを主張する。

就任当初はそういう振る舞いも重要だと考えたが、1年半たった今、彼が日本人のことをどれだけ理解しているのだろうかと思うこともある。日本で日本人を指導するのだから、日本人のことをもっと知るべきだし、学んでもらい。

「疲れているか?」と訊かれて、「はい、とても疲れているから、今回は代表休ませてください」と応える日本人選手はほとんどいないだろう。「今はクラブに集中したいから、代表選出は遠慮します」という選手もいない。起用法について、監督に楯突く日本人は少ない。何も言わないから満足しているわけじゃなく、上司に意見するような人種じゃないのだ。自ら代表引退を口にする選手も皆無だ。

そして、「監督はああいったけど、こういう戦い方もあるんじゃないか」と試合中に臨機応変にプレーできる選手も少ない。「プレーをするのは俺ら自身だから。監督の言っていることはアイディアのひとつにすぎない」と話す選手はいるけれど、実際は監督の指導と自身のプレーとのはざまで思い悩み、結果消極的なプレーしかできなくなる……残念ながら代表クラスの選手でもそういうレベルの選手は多い。

良くも悪くも監督の指示に忠実であろうとする日本人の気質に戸惑う外国人監督は多い。自由奔放な欧米のサッカー選手を指導するのと同じようなやり方では、チームや組織をうまくコントロールできない。そういうことは日本人スタッフが監督に提言しているだろうと信じたいが、果たしてそうなのかという不安もある。

「代表は代表で今は問題を抱えていると思うし、ちょっとこうチグハグというか、みんなが自信を持ってできなくなっているので、そのへんはちょっと次、代表に呼ばれたら、自分らベテランという感じだから、(自分が)試合に出るか出ないかというよりかは、そういうところで(代表を)もっとやりやすい環境にしていかないと、シンプルに集まった選手がすぐに力を発揮できるような場というか……」
これは9月27日のチャンピオンズリーグ対ポルト戦後の岡崎のコメントだ。

就任から1年半が経ち、監督はチームの進化を口にしているが、選手は現状に問題を感じているようだ。もちろんUAE戦に勝っていれば、ここまで追いつめられることもなかったのかもしれない。しかし負けてしまった。この事実は変わらない。自身が背負うプレッシャーと同じだけ、選手にそれを課そうとすれば、日本人選手は余計に委縮してしまう。

ミーティングの時間や与える情報量、練習の濃度について、「やりすぎかもしれない」と監督が感じていることは、今回の会見でも伝わってきた。このあたりのバランスを上手くとれれば、もう少しチーム内の空気も変わっていくはずだ。

そして気になることがもうひとつ。ハリルホジッチ監督は、代表合宿がない間も手間暇かけて選手をケアしているという。選手ぞれぞれに練習メニューや課題を託し、代表戦のための情報も事前に渡すようにしていると。「自分はしっかり仕事をしています。合宿がない間もできることはすべてやっている」という監督のアピールを聞くにつけ、選手を信頼していないのかとも思ってしまう。そして、過保護になってはいないだろうか? と。

そもそも、クラブでのトレーニングメニュー以外の練習メニューをこなすことをクラブの指揮官はどう感じるのだろうか? 欧州では自主トレすら禁止する指導者も少なくない。もちろんJリーグの指導者だって感じるところはあるだろう。

所属クラブで厳しい生存競争を続けている選手にとって、「次の代表戦のためのDVDを送るから、しっかり見ておくように」と与えられる宿題が重荷にはならないか。まあそんな心配をする私が過保護なのかもしれないけれど。

苦戦上等。それが日本のW杯予選だ
指揮官には動じない態度で挑んでほしい



苦境に立つなかで、指揮官が熱心にトレーニングし、ミーティングを重ねてもなお、代表チームの課題は解決してはないように見える。中央に集まってしまう悪癖。縦への速さを意識しすぎて生まれる焦り。ボールロスト後の対処……。W杯ブラジル大会で露呈した問題は残されたままなのだ。アタッカーの駒は多い。本田や香川が居なくても、清武や宇佐美、原口がいる。問題は守備陣の層の薄さだ。

「チームは確実に進化している」と監督はいう。「決定的なチャンスをたくさん作っている。それはデータが示している」と繰り返す。そんなふうにデータを大事にすればするほど、問題の根っこは残っているように思う。当然、監督が会見ですべてを話す必要はない。会見、公の場だからこそ、「良いデータ」ばかりを強調しているだけなら、良いのだが。小さな良い兆候にしがみついていては、見なければならないものが見えなくなる。

日本代表は、W杯に出場することが目の前の目標ではあることに異論はない。
しかし、その世界の舞台で勝つためのビジョンが現チームからは感じられない。過去を振り返っても、日本サッカー協会は、長期的な視野にたってチームを運営することが得意だとは思えないが、たとえば、4年前の代表チームにはロマンがあり、夢があった。もちろんそれを支えたのは南アフリカ大会での好結果が導いた自信があったからだとは思う。そして、現代表にはその自信がないのだろう。

W杯最終予選はいつだって、何が起きるかわからない。苦戦上等という気構えでチャレンジした結果、出場権を手にしてきた歴史が日本にもある。ハリルホジッチ監督にはその歴史を知ってほしい。試合を制するためにはディテールも重要だが、ボールがどっちへ転ぶかは誰にもわからない。トレーニングやミーティングの量で勝敗が喫するわけじゃない。レフリーの笛をコントロールすることもできないのだ。ならば、ディテールに一喜一憂するよりも大事なことがある。

「お前たち、日本代表はこんなに苦戦しながらも予選を突破して来たじゃないか。その粘り強さこそが日本人の長所であり、武器だ。だから、心配するな、自分たちを信じて、やってこい!」
動じる様子もなく、そう強く選手の背中を押す。指揮官にはそういう態度で大一番に挑んでもらいたい。

[文・寺野典子]