今月初めに出版された『日本人に教えたい戦術的ピリオダイゼーション入門』(Football Weekly編集部訳)のなかに、日本サッカーのファンには懐かしい顔が登場している。デットマール・クラマーさんだ。
 しかし、クラマーさんの登場にはいささか驚いたというのが本音だった。というのも、本書は最新戦術とトレーニングを紹介している本であり、引用されている監督も現代サッカーを代表するペップ・グアルディオラであり、ジョゼ・モウリーニョであったりするからだ。サッカーの基本を語る時に、クラマーさんのことが引用されているのは、クラマーさんをリアルに知っている世代としては、素直に嬉しかったし、欧州におけるクラマーさんの偉大さを改めて思い知らされた。

 彼の言葉として引用されたのは「『より良いこと』が可能ならば、『良い』は十分ではない」というものだ。さらに上を目指すものにとっては当たり前の言葉だろうが、クラマーさんはそれを適確に表現していた。
 そこで、クラマーさんの生んだ最高傑作といえる、日本を代表するFW釜本邦茂(サッカー協会顧問)さんにクラマーさんのことなどを聞いてみた。

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最高ができるなら、最良ではだめ」というのはよく言われていたね。ベターではだめ、ベストになれって。

 クラマーさんと初めて会ったのは16歳の頃だから、はや半世紀を越えているね。僕らの頃は、ただ、蹴って走ってゴールを目指せばいいという時代だから、まず、サッカーに必要なのは3Bとクラマーさんに言われた時には、いささか驚いた。Ballコントロール、Bodyバランスと体力、Brain頭なんだが、それが実際の練習でも常に問われていたんだ。

 練習ではボールをつまらないミスで逃すと本当に怒られた。とにかくクラマーさんがいると集中していたね。でも、クラマーさんが目を離すとつい気が抜けてミスするんだ、そうすると「正確に=genauゲンナウ」ってドイツで叫ばれる。どこで見ていたのか、しっかり横目で見ていたのかもしれないけど、こちらは見てないと思っていたから、驚いたね。

ただ、ミスをするなというよりも「正確に」ということを徹底させられた。逃したボールを追わずにだらだらしていると「北海道の熊」かって言われたり、ボーっとしていると「コカコーラボーイ」かって言われたり、本当にたとえが面白かったね。

 練習では2対1、3対1などから始まるけど、一番大事なのは1対1だって対人を教え込まれた。
 同時に言われたことは、練習試合をする場合でも季節を考えろって。欧州を相手にする場合、真剣な戦いをしたいなら、選手がトップコンディションを意識する9月のシーズンの開幕時期がいいとか。本当に全体を考えていた。

 僕らの頃はまだアマチュアだったけど、クラマーさんの影響もあって、そうしたコンディションを年間、季節、月、週で考えていたね。試合の日から逆算してね。ピリオダイゼーションってそうしたことから始まったと思う。

 で、何が言いたいかと言うと現在はプロだよね。プロだったらそうした「期」の流れをもっと意識したら、簡単に調子悪いとか、コンディション上がらないなんて言えないと思うんだ。だって、24時間それで生きているわけだからね。

 僕らは学生だったり、社会人だったり、それぞれサッカー以外のことも考えないといけなかったんだよ。それでも自分で管理したんだ。その違いを考えたら大きい。ケガによるものならともかく、それ以外の言い訳はないよ。恵まれた環境をもっと意識して欲しいね


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 と最後には苦言を呈してくれたが、確かに本書ではそうした逆算を具体的に考えてもいる。また、トレーニングの方法もそれぞれのテーマにそって63種類も載っているのだ。次回はその練習を一つ紹介したい。

(第3回につづく)