09_tatsuya_1FW第24回「エールのちから」



----------------------------------------------------------------------
 
頑張るのは当たり前。それが田中家の約束

 PK戦に持ち込まれた試合で、PKを外し、負けてしまったあと涙を流している。
 そんな長女の姿を見て、僕は誇らしい気持ちになりました。
 その涙からは、サッカーが好きで、彼女が毎日、どんなに頑張ってきたのかが伝わってきました。悔しいという想いが、きっとまた彼女のちからになると思うから。

 サッカーに明け暮れている長女。
 次女はチアリーディングと、水泳と、サッカーをやっています。
 子どもたちが何かをやってみたいと言い出したとき、田中家ではひとつの約束をかわします。
「自分でやりたいと言ったんだから、頑張るのは当たり前」ということです。ここが最低ライン。だから、たとえば、着替えやボールなど、練習へ行くための準備を怠ったりというようなことは、許さない。「疲れた」という言い訳も通用しない。そういうところは、厳しい父親なのかもしれません。
 でも、そういう習い事に限らず、何事にも「頑張るのは当たり前」という気持ちを忘れないでほしいなと思うんです。

 そういう娘たちには、「頑張って」というふうに声をかけることはあまりしないほうがいいのかなぁとも考えます。「私は頑張っているのに……」と追い込んでしまうことになるのかもと思ったり。だから、「ゴールが決められるといいね」とか「勝てるといいね」というふうに送りだすことも多いです。とはいえ、「練習頑張ってね」とか、ついつい軽く言ってしまうことも、もちろんあります。
「いつも頑張ってくれてありがとう」
 頑張っている家族の姿を目にすると、そんな気分になります。

 以前、何かのインタビュー記事で、誰だったか忘れたんですが、アスリートの方が「誰かに言われなくても、頑張るのは当然のことなんです……」みたいなコメントを読んだんです。「なるほどな」と僕自身、共感できるところもありました。

 だけど、そうは思っていても、「頑張ってください」と言われるのはやっぱり嬉しいものです。
 そして僕は、本当にたくさんの人たちから「頑張ってください」というエールを贈ってもらえる幸せな仕事に就いているんだなと、今改めて感じています。家族や友だち以外の方々から、こんなふうにエールをもらえるなんて。特別なことだと思うから。

 負傷が続き、リハビリを繰り返しているときにも、結果が残せなかったり、試合に出られなかったりしているときであっても、「応援しています。頑張ってください」と言って頂けた。そういう言葉に自分は支えられてきたし、ちからを貰ってきました。それは浦和レッズでも、そしてアルビレックス新潟でも同じです。スタジアムでも練習場でも。そういう声援によって、“さらに”頑張ることができたのかなと。
「もっとサッカーがうまくなりたい」「サッカーを楽しみたい」という自分の気持ちを後押ししてくれたのが、そういうエールだなと思うから。感謝の気持ちを持って、プレーしたいと考えています。 


「夢や勇気を与えたい」と軽々しくは言えない

「見てくれている人に夢や勇気を与えられるようなプレーがしたい」
 僕はそういうメッセージを強く発信することに、わずかな違和感があります。自分がそういったことを言うのはおこがましい、というような気持ちがあるのかもしれません。
 もちろん、僕たちの姿に「感動」や「勇気」をもらったと言ってくれる人がいる。これはとても特別で幸せなことです。でも、むしろ僕のほうが、みなさんの言葉や声援に「感動」や「勇気」をもらっています。
 だから、自分なんかが「夢や勇気を与えたい」と軽々しくは言えないなという気持ちも消えません。

 いつも思っているのは、スタジアムに来て下さった方や、テレビ観戦してくれている人たちに、サッカーを見ている時間を楽しんでほしいということ。
 たとえば、僕が良いドリブルをしたときに、スタンドから「わぁ〜」という歓声が沸く。そういう瞬間を味わってもらえたら、最高だなって思うんです。
 わずか90分。長い人生や一日のなかでは、本当に短い時間かもしれないけれど、なにもかも忘れるようなそんな楽しい時間を過ごしてもらえたらなと思うんです。
 
 シーズンも終盤を迎えました。
 多くの「頑張ってください」というエールへの感謝をこめて、チームのために、僕は懸命に戦っていくだけです。


【構成/寺野典子】