「私の人生において、4試合も勝てないという経験をしたことがない」
 ハリルホジッチ監督は、8月27日のW杯ロシア大会のアジア2次予選のメンバー発表の席でそう話した。アジア2次予選初戦でシンガポールでスコアレスドロー。そして東アジア選手権でも2分1敗。
 再度シンガポール戦映像を見直し、試合当時よりもイライラが募ったとも話している。それでも、「チャンスは作れていた」とポジティブな手ごたえも口にした。

 今回対戦が予定されているカンボジア、アフガニスタン共に、低い守備ブロックを敷くことは容易に想像できる。「カンボジアは5人のFがいる。われわれも5人のDFをおいて練習する」と話し、「相手のカウンターにも注意しなければいけない」とも語ったが、会見のメインは攻撃についての話が大半を占めた。チーム戦術というよりも日本人選手の個人的能力についての言及が続いた。

 指揮官の言葉を要約する。
長谷部や山口などはもっとミドルシュートを打ってほしい。そのほかの選手にもその練習を実施したい。

真ん中で岡崎ほどできる選手がいない。点を獲れる選手を見つけるのは簡単じゃない。ゴールを獲れる選手を探している。

長身選手が少ない。FWもDFも大きな選手を見つけなくてはいけない。

大久保や豊田はJリーグで得点数が多いが、ロシア大会を考えると年齢が高すぎる。指揮官から名前は上がらなかったが、佐藤寿に対しても同様の考えであることは間違いないだろう。

4試合を戦ったが、FKやPKという形が少なかった。ペナルティエリア内でファウルになれば、PKがもらえるのに、それがなかった。そういう文化が日本にはないのかもしれないが、ああいう試合ではPKが勝利をもたらす可能性は高い。

 相手のファウルを誘発するプレーは、ずるがしこいのではなく、ひとつのインテリジェンスだ。
 サウジアラビアとオーストラリアの試合を見たが、オーストラリアはペナルティキックを誘発するプレーしかしていなかった。5回目にやっとPKを得て、勝利した。
 私はFWでプレーしていたので、相手のファウルを誘発するプレーを教えたい。

(「1点を獲るための選手交代や采配は?」と訊かれ)よりよい交代ができるかわからない。オカの代わりに誰を出すのか? 簡単ではない。チャンスは作れている。量や質はかなり良かった。しかし、シンガーポール戦は効果的ではなかった。もっと攻撃面に働きかけたい。この試合、最後には原口を投入し、5人のFWを入れた。それ以上の効果的なことはできない。

勝利のための現実的な対策は?

 日本人の得点力不足の解消はもう長年の課題である。
 あらゆる選手や指導者、メディアや識者、サポーターが痛感している問題だ。
 その原因を追究するとやはり“個のレベル”というところに行きつく。シュートを打つときはひとりなのだから。しかし、ゲームスピードが上がったり、相手の執拗な守備に手を焼いたり、身体能力の差で大型DFに勝てなかったり……と、グループで生み出したシュートチャンスを迎えても、ゴールが生まれない。
 それが日本の現実だ。その対策として、指揮官は新戦力の発掘の重要性を口にした。そして、ファウルの誘発やミドルシュート、攻撃陣の大量投入など、自身が考える“効果的”な方法について説明してくれた。

 PKをもらうためのプレーを学ばせたい。
 指揮官のその姿勢が、簡単にチームに浸透するとは思えない。言ってしまえば、日本人はそういうプレーに馴染がない。そういうプレーを「するものではない」というなかで育ってきた。その育成に問題があり、だから、勝てない。という論調を決して間違いだとは思わない。世界を見れば、相手のファウルを誘発するプレーは、ごく自然に行われているのも事実だろう。インテリジェンスと言われたら、それにも納得できる。日本にない文化で、世界で勝つためには必要う不可欠な選択だとも考える。
 けれど、それを公の場で、話すことの危険を指揮官はわかっているのだろうか? 

 改革の必要性を声高く論じ、世界のスタンダードを伝えたいという気持ちは理解できる。けれど、そればかりを強調する姿勢が、いわゆる「上から目線」という風に捉えられることもあるだろう。
 多分きっと監督は「上から目線」なんて、言葉は知らないだろうし、それが批判の根や信頼を築くための障害になることを認識すらできないかもしれない。しかし、それこそが、日本人のメンタルであり、「上から目線を嫌う」のもまた日本人の資質なのだ。

 長身選手が少ないことも日本の特長である。監督が褒めちぎる岡崎は、身体能力も身長も高くはないが、イングランドで持ち味を発揮している。
 日本代表監督として、日本人の特性を理解し、そのうえで、できることを模索していくという姿勢。それが無いわけではないだろう。しかし、自身の哲学をまっとうするために、無いモノねだりで空回りしてしまわないか、不安に思う。

 長身選手はいないが、永井のスピードはある。ならば、それを最大限に生かす方法についても語ってほしかった。もちろん、引いた相手、スペースがない状態で、永井を活かすのは難しいだろう。けれど、 FW5人を投入すれば、ただでさえDFでいっぱいのペナルティエリア内の混雑をさらに促し、動きなおしたり、飛び込んだりと、動きながらスペースを作り、ゴールをつなげる選手が多いのもまた、日本人選手の特徴だ。

 ロングボールに競り勝つのは下手だし、ファウルを誘発するプレーもうまくない。サッカーにおけるインテリジェンスが足りないかもしれない。それでも、日本人の特長や武器もある。それらは長身選手のいない国が、世界ステージに立つために、数多くの指導者が悪戦苦闘の末に育て、たどりついたひとつの形だ。それをベースにし、日本人ならではの代表チームが作れたとき、初めて、ハリルホジッチ哲学が、日本に浸透していく。

監督会見で感じる焦り

 数か月ぶりに代表監督会見に出席した。
 いつものように多弁で、サッカーへの熱情や自信に溢れているようにも見える。
 しかし、どこかに焦りのようなものが感じられたのも事実だ。
 就任以来公式戦4戦勝ちなしで、落ち着いていることのほうが難しいだろう。

「2回目の言い訳はしたくない」と言ったあと、再び「東アジア選手権で2,3日の時間があれば、初戦に勝てた。それほど強い相手ではなかったから。初戦に勝っていれば、1位になれた」と繰り返した言葉に、ハリルホジッチの負けず嫌いな姿勢は十分に伝ってくるが、日本には負け惜しみという言葉があることを彼は知っているんだろうか?

 PKの件についても、「みなまで言わずとも」という風にも感じてしまう。
 FW不足、得点力不足、悲痛な現状を訴える姿からは、主張が強ければ強いほど、「監督が追い込まれているのではないか」という疑念を抱いてしまう。
 カンボジアにしても、アフガニスタンにしても、勝って当たり前という空気が消えることはないだろう。戦力やサッカー環境などを考えれば、勝つべき相手だし、圧倒し、アジア王者としての存在感を見せつけることで、勝者のメンタリティが身につけられる。
 正念場に立たされた日本代表の立場を象徴するような監督会見だった。

 ハリルホジッチは通訳者の日本語への訳が終わってから、話し出す……という風に会見の流れは変わった。6月のときは、監督の言葉を訳す間もなく、監督が話だし、通訳が追いつかないという状況だった。
 しかし、気になる点がある。
 監督の言葉を「U−18の試合も見に行ったし、五輪代表も見た。若い選手がいました」と日本語に訳されると、「そりゃ若い選手はいるでしょう」とつっこみをいれたくなる。「若い有望な選手がいた」と言いたいのだろうとは思うけれど。
 また、「真ん中で岡崎ほどできる選手がいない」との発言のあとも「2、3人見つけたい選手がいる」という日本語訳。多分、「2、3人の選手を見つけたい」ということなのだろうが、「見つけたいと考えていた選手が2,3人いる」という風にもとれる。
 あげあしをとっているだけなのもしれないけれど、こういう状態が続き、 “足りない”言葉があることで、誤解を生む可能性もなくはないのだから、もう少し丁寧な日本語訳をきいてみたいと思った。

「苦境に立ったとき、どうそれを打開するか?」
 それは、監督に限らず、人間の能力を問うときに重要なポイントになる。
 注目のワールドカップ予選が始まる。