ワールドカップ予選を迎える日本代表にとって、アジアカップでベスト4に進んだイラク代表との対戦は最高のテストマッチとなった。

3月の初陣2試合を勝利で終えたハリルホジッチ監督は、「また今回の2試合も勝つぞ」と選手に発破をかけたという。その狙いは「勝利のスパイラル」を生むことだ。

就任以来、日本にはポテンシャルがあると言い続けてきた新指揮官は、先のW杯とアジアカップで結果を残せなかったことで、チームには「その失望が残っている」と見ている。底に沈んだ状態から浮上するためには勝ち続けることが最良と考えているのだろう。ただ、それも目先のことを考えての要求ではない。指揮官の選手起用は、はっきりと本大会を視野に入れた強化策を準備していることをうかがわせるものだったからだ。

「シンガポール戦は第一段階ですけど、第二段階もすぐにやってきて、W杯出場を決めるとなるともっと強いチームと戦わないといけない。世界でも有数の国とやらなければならない。そうすれば、またそこで結果を出さないといけない。W杯予選は明日(11日)に始まると思っています。イラク戦でしっかり準備して、シンガポール戦に向かいたい。W杯への準備は1カ月ではなく4年かかります。4年で本大会3試合の準備をするのです」

そう言って選手を送り出した監督に、イラク戦に臨んだ選手たちは序盤から高い集中力で応えて見せた。

開始5分、縦への速い攻撃を志向する監督の要求を体現するかのように、中盤でパスを受けた柴崎岳がすばやくルックアップして相手DFラインの裏へパスを落とす。そこに抜け目なく走り込んでいた本田圭佑が相手DFと競り合いながらゴール右隅に蹴り込み、幸先よく先制点を挙げる。この得点で勢いづいた日本代表は9分にも追加点。初めてのコンビながらキープ力のある宇佐美貴史と激しい上下動を厭わない長友佑都の好連係からCKを得ると、香川真司の蹴ったボールはフォアまで流れ、槙野智章が難なく流し込み点差を広げた。

序盤こそ、前からボールを負う姿勢を見せていたイラク代表は、この2失点により完全に意気消沈。深いディフェンスラインを敷いて失点を防ごうとするが、選手間の連係は取れておらず組織的に守ることができない。33分にも柴崎から縦パスを受けた宇佐美貴史のドリブル突破から岡崎慎司に3点目を決められ、前半は一方的な展開となった。

しかし、日本の序盤はさすがにハイペースだったのか、後半に入るとペースが落ちてしまう。前半のようなコンパクトな布陣が徐々に保てなくなると、50分過ぎからイラク代表が日本のDFラインの背後をつくボールが増えてくる。58分には吉田麻也がロングボールの処理を誤り、後ろにすらしてしまうと、槙野智章と川島永嗣が交錯しあわやという場面をつくられてしまった。攻撃面でも、パスはまわせるがシュートを打てる場面でもさらにひと手間かけてしまう日本の悪癖が顔をのぞかせる。それまでベンチに座っていたハリルホジッチ監督も、リードを奪う前と同様にライン際まで出て指示を送るように変わっていった。

そうした展開を変えるため、指揮官は相次いで攻撃的な選手を入れ替えることで、攻撃を再び活性化しようとする。66分、宇佐美貴史、香川真司、本田圭佑という2列目の選手を武藤嘉紀、原口元気、永井謙佑へと総入れ替えしたのを手始めに、73分には岡崎慎司に代えて大迫勇也をピッチへと送り込んだ。ただし、総じてゴールへの意識が強い選手が揃ったため、ポジションのバランスは先発メンバーほど保てず、永井らがクロスをあげても中の選手に合わない。分厚い攻撃を仕掛けようとSBが攻めあがると、ゴール前は大渋滞となってしまい、必ずしも効果的な交代とは言えなかった。

しかし84分、2得点に絡んでいた柴崎岳が縦パスからチャンスを演出。ルックアップすると動き出した永井を見逃さず、すかさずその速さを生かすロングパスを送る。永井にパスは通らなかったものの、ディフェンスのクリアを原口がすばやくフォロー。そのままの勢いでドリブルを仕掛け、代表初得点となる4点目でイラクを突き放した。

この4点目で監督は強化策がうまくいっていることを実感できたのか、試合中にも関わらず、選手とハイタッチを交わしていた。

試合後の両指揮官の様子は対照的だった。
思うようなサッカーを展開できなかったイラク代表のアクラㇺ・セルマン監督は「冒頭の15分は無失点で行きたかったが2点を失って、選手は自信を失ってしまった」と試合序盤の複数失点を悔やみ、さらにはキャプテンでエースストライカーでもあるユニス・マフムードを欠いたことにも言及。「マハムードが来られなかったことも選手たちに影響したと思う」と悔しさを隠しきれずにいた。

一方のハリルホジッチ監督は会見場に登場すると、目の前にあったペットボトルの水をコップに注ぎ、口を潤してから質問に答える余裕ぶり。高い要求を突きつけた選手のパフォーマンスに対しても、「大変満足している」と評価した。

しかし、その言葉とは裏腹に表情はほとんど変わることなく、にこりともしなかった。その後口にした「もっとよくなる」という言葉の方が本音であり、未来を見据えたときにはまだまだクリアしなければいけないことの方が多いのだろう。

「このような道を続けていきたい。いつも言っているように勝利、勝利と」
まずは、ハリルホジッチ監督が思い描いた状況で、シンガポール戦に向かうことなった。


【取材・文】田中 滋