第11回 同級生の西大伍が僕に与える影響について


笹木pic
●会わずに帰ろうと決めた

 今日はこのまま会わずに帰るべきじゃないか?
 たとえ会ったところで、どんな言葉をかければ良いのかわからない。
 実際、僕にはかける言葉がなかった。
 だったら、黙って帰ればいい。幸い、ヤツは僕がこのスタジアムへ来ていることを知らないのだから。知らせなくて本当に良かったな。
 FCソウルの追加点が決まり、鹿島アントラーズの敗戦が濃厚となりつつある、試合終盤、僕はそんなことを考えていた。
 そして、試合が終わると、監督会見室に座っていた。
 指揮官の言葉をノートに書き留めながらも僕はアイツのことを考えていた。
 先制点を決めながらも逆転されて、ACL敗退が決まった。しかも途中交代している。きっと悔しいに違いないだろう……。

「西選手が呼んでいるよ」
 かけられた言葉にハッとする。そこにはミックスゾーンに行ったライターの寺野さんがいた。「西選手が待っているから、急いで急いで」と促されながら、僕はミックスゾーンへと急いだ。
 ロッカールームからの出口付近は薄暗く、広い場所には、取材のためにロープが張られている。鹿島アントラーズのチームバスのそばに、西大伍が立っていた。

「久しぶり」
「うん、久しぶりだね」
 簡単にそう挨拶したあと、やはり言葉が出てこなかった。
「試合負けちゃったし、途中交代だし、かける言葉がないんだよね」と寺野さんが僕の気持ちを察したように言ってくれた。
 僕はただ「図星」というしかなかった。
「残念だよ。もっとACLを戦いたかったな。ACLは楽しかったから」
 大伍が少し表情を緩めて、そう言ったとき、僕はスゥーっとリラックスできた。
「テレビで鹿島の試合を見ていて、最近、大伍のキックの質、クロスボールの質が変わってきたなぁって感じているんだけど」と僕。
「わかった? 身体の使い方をちょっと変えてみたんだよね」と大悟が破顔する。
 大伍の進化に気づけた僕もちょっと得意気に笑った。
「また飯でもいこうよ。この間××が試合を見に来て、俺んちに泊まったんだよ」
 懐かしい友人の名前を口にしながら、僕らは旧交を少し温めた。

 中学時代の同級生。
 西大伍と笹木勇一郎は久しぶりの再会を果たした。鹿島サポーターの罵声が飛び交うミックスゾーンで。短い時間だったけど、それによって僕はグッとパワーをもらえた。会わずに帰らなくて、本当に良かった。


●夢に向かうバスで

 僕らふたりが通ったのは、北海道札幌市の札幌市立真栄中学校だ。
 小学校は違ったけれど、大伍のことは知っていた。
「すっごくサッカーが巧い子がいるんだよ」と有名だったから。誰よりも背が低いのに、サッカーでは誰にも負けない。それが西大伍だった。
 そして、中学に上がると、彼はコンサドーレ札幌のU-15チームへ所属。「スゲーな大伍」と同級生たちの間では、ちょっとしたヒーローだった。

 野球部だった僕は、同じ中学に通っていたときは大伍との交流がはそれほど深いわけじゃなかった。共通の友人が僕らの間を繋いでくれる……という感じで、話をする機会はわずかだった。
 大伍が順調にコンサドーレのU-18チームへ昇格を決め、僕らは中学を卒業し、それぞれ別々の高校へ進学する。
 すると不思議なことに、通学バスの中で、乗り合わす機会が増え、自然と言葉を交わすようになった。

 サッカー少年の大伍とすでにバンド少年だった僕。
 どんな会話をしていたのか思い出せない。
「やぁ」とか、「元気?」とか、「頑張ってるね」とか、「頑張ってね」とか……そんな感じだったのかもしれないね。じっくりと話し込んだりはしなかったかもしれない。

 だけど僕は感じていた。
 授業を終えて、グラウンドへ向かう大伍は、Jリーガーになるという夢を追っている。そして僕も、ミュージシャンになるという夢を叶えたいとスタジオへ向かっていたのだ、と。夢を叶えるための場所へのバスにふたりは乗り合わせていたんだ。
 レコード会社に送ったデモテープが評価された僕に、デビューのチャンスが訪れた。高校卒業を前に上京することになった。
 大伍もトップチーム昇格が決まり、ふたりには夢を叶える機会が訪れた。


●嫉妬というエネルギー

 プロのミュージシャンになる前提で上京したものの、いろいろなことがあり、デビューが叶わなかった僕は、札幌へ戻り、アマチュアのバンドマンとなった。自分の音楽活動に不満も不安もなかったし、それなりに充実した日々を過ごしていた。
 それでも、地元の旧友が一同に会する成人式への出席を僕は拒否した。デビューできずに帰郷したことで、悔しさや後ろめたさ、恥ずかしさがあったからだ。成人式当日はライブハウスでライブをやっていた。今思えば精いっぱいの強がりだったのかもしれない。

「大伍がみんなを代表して、挨拶をしたんだけど、堂々としていてかっこよかったよ」
 式に出席した友人の話を訊いて、僕は大伍に猛烈に嫉妬していた。
「その場所に立つ可能性は僕にも会ったのに……。できれば大伍が立ったその場所に立ちたかった」
 20歳の僕らの代表として、檀上で語る大伍の姿を想像し、とにかく悔しさが募った。そして、大伍にそんな想いを抱いている自分自身に驚いた。

 それから僕は、バンドの仲間たちとイギリスへ渡った。ライブ活動と並行し、レコード会社の人たちとコンタクトをとりながら、デビューの可能性を探っていた。
「勇一郎も頑張っているんだな。俺も頑張らなくちゃな」
 イギリスでの僕のことを訊いた大伍がそんな風に語っていたという。
 そして、その後の試合で2ゴールを決めたという。

 もう大伍は覚えていないだろうけれど、僕はそのことを人づてに訊いて、僕は静かに微笑んだ。
 僕が大伍に嫉妬し生まれた力が、モチベーションの燃料になったように、俺の存在が大伍にとって、何かしらの影響を及ぼしてくれていたとしたら……そう考えるとポッと心の中に灯りがともるようなそんな気分になれた。
 結局、イギリスでのデビューが叶わなかった僕は、地元札幌へ戻ったが、ミュージシャンになるというモチベーションは変わらずに燃えていた。
 
 大伍はアルビレックス新潟を経て、鹿島アントラーズへ活躍の場所を移し、日本代表にも選出された。そして、再度上京した僕にも再びデビューのチャンスが巡ってきた。
 

●進化し続ける同級生を誇らしく想い、さらに悔しさが増す

 5月5日、ACLグループリーグ最終節。鹿島アントラーズ対FCソウル。
 公式戦で鹿島アントラーズのユニフォームを着た大伍の試合を初めて生観戦した。

「アントラーズへ移籍する」と訊かされたときは、「あの強豪クラブの一員になるなんて!」と、正直驚きしかなかった。あれから4年、カシマスタジアムで走る大吾はアントラーズのシャツに相応しい選手だった。なんの違和感もなかった。サポーターが歌う大吾のチャントを聴くと、進化した同級生の姿にとても誇らしい気分だった。

 僕自身も大伍に負けない成長を遂げているのだろうか? 
 自問自答しても、その答えはわからない。だけど、進化を求めていくことをやめるわけにはいかない。
 そして、気づいた、
 成人式のときに抱いた悔しさ。その根っこがまだ自分の中に残っていることを。
 そして、思う。
 西大伍と笹木勇一郎。
 僕らは、サッカーと音楽。小学生のころかずっと同じ夢を追い続けてきた。だから他の同級生とはちょっと違う関係なんじゃないかと。大伍がどう考えているかはしらないけれど、僕にとって大伍は、旧友でありながら、危機感を与えてくれる存在なんだ。悔しさを味あわせてくれる人間なんだ。
 同じ関東圏内で生活しているふたりだけれど、会う機会は非常に少ないと思う。年に一度連絡を取り合えば良いほうだ。でもこの距離感がちょうどいい。いつも身近にいる相手に対して、悔しさは維持できないだろうから。
 テレビ観戦のときも、数万人の前で活躍している大伍を見ると、めちゃくちゃ嬉しく、そして本当に悔しい。口では素直に「良いプレーだったね!」と言っていたとしても、心の中には熱っぽい悔しさが充満しているんだ。

 試合のあと、昨季限りで引退した中田浩二さんを紹介してもらった。
 ユニフォーム姿の記憶もまだ鮮明に残っている中田さんが、スーツ姿でさっそうと職務にあたっていた。新しい夢へ向かい、次のステージを歩いているんだということがわかった。
 そして、知った。
 大伍が現役プレーできる時間が“有限”であるという現実を。 
 日々、成長の速度をあげている大伍の姿に僕は勇気づけられる。同時に嫉妬心をあおられてもいる。そんな西大伍を現役選手として応援できる時間は永遠というわけじゃない。だからこそ、彼がプレーできる時間を、じっくりと噛みしめて、味わいながら、見ていかなくちゃいけないんだ。

 走り続けるマイヒーローに、最大限のエールと愛を込めて。



構成:寺野典子

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プロフィール
笹木勇一郎/1988年1月8日 北海道札幌市生まれ。2015年7月1日、ファーストアルバム『東京シティーらんでぶー』がリリースされます。7月17日には渋谷B.Y.Gにてワンマンライブが決定しました(チケット入手方法は下記笹木勇一郎.netに)。
6月7日 名古屋SAKAE SP-RING 2015 19:15頃出演予定 会場ビジュアルアーツ AIR HALL/6月9日 GARDEN & DISK GARAGE presents COME TOGETHER Vol.01 会場下北沢GARDEN 18:30開演/7月12日 第41回さっぽろ市民音楽祭12:00〜17:30 会場ホコテン 観覧無料