●練習試合の意義。深まるコニュニケ―ション

 これから本格的な夏へ向かおうとしている南半球のオーストラリアでのアジアカップ。陽が沈めば過ごしやすくはなるものの、暑熱対策が重要なカギとなる大会だ。
「4年前のカタール大会でも暑さはありましたが、湿度がとても低かった。しかし、オーストラリアは高温多湿です。初戦10日前に入り、日中に練習することで高温多湿に慣れ、しっかり汗線を開くトレーニングを行いました。試合時間は夕方なので、湿度も下がってくる。そうすると身体も動きやすくなりますから」と霜田技術委員長。

 チームは1月3日からセスノックという小さな町で5日間の合宿を実施。到着翌日には、早速オークランドシティとの練習試合、翌々日の5日は、控え組を中心に地元クラブチームと非公開で30分ハーフの試合を行っている。
 12月29日から始まった国内合宿を経ての長距離フライト。疲労を抱えた状態での試合だったが、選手の身体に暑さを実感させるために必要なトレーニングマッチだった。

 シーズンが終了しているJリーグに所属する選手にとっては、試合勘を取り戻すきっかけになり、欧州組にとっても、オーストラリアの気候を体感する絶好の機会となった。指揮官が掲げた「無失点」という課題は2試合ともにクリアしているが、連携面での課題を残す内容でもあった。

 しかし、そんな試合のあと、ピッチでは選手たちが会話を交わす光景が印象的だった。芝生に座り話し込む選手たちの輪が次第に大きくなったり、小さくなったり。ジョギングをしながら手振り身振りで熱心に話している者もいる。

「監督からいろんなアドバイスはあるけれど、『ピッチで表現するのは選手だ』ということをいつも言われている」とアギーレ監督就任第一戦目のあと、岡崎慎司が話していたし、その後も多くの選手が同じようなことを語っていた。だからこそ「選手間のコミュニケーションが増えている」と。そして、アジアカップを前にして、その質や量が一層増したようにも思える。

「ブラジルW杯のときよりも選手同士が話している時間は滅茶苦茶増えましたね。監督は『これをやりなさい』とはっきり言っているわけではないので。いくつかのオプションの中で、自分たちでちゃんと考えて解決しなさいという指導方法なんです。やっぱり日本人が次のステップへ行くためには、自分たちで判断して、考えて、ピッチの中で結論を出す選手になってほしいと思っています。そういう意味では選手たちの意識もだいぶ上がってきています。選手たちがピッチの中で考えて、判断して、選択するという余地がサッカーには絶対にある。それを大前提としてスタートしているので。公開練習を皆さんにも見てもらったと思いますけど、練習の中でもそういうメニューがたくさんあるし、決まりきったパターン練習というよりは、自分たちが判断して、ピッチの中でお互いのコンビネーションを合わせるという練習が多いので」

 霜田技術委員長が語る通り、ほとんどの練習が対人練習で、GKを交えての実戦形式が中心だ。
「ザックさんのときは、GKだけで練習する時間のほうが長かったけれど、フィールドプレーヤーと一緒にやっているアギーレさんの練習は、新鮮です」と西川周作が話していた。試合で起こりうる状況を想定しての練習は、自然と選手たちの集中力も高まり、ピッチには活気が満ち溢れている。

●雰囲気作りに長けた指揮官の柔軟性

 ある日の練習では、監督の怒鳴り声がピッチに響いた。「何をやっているんだ」と喝を入れられ、やり直しを命じられた選手が、良いプレーをしたとき、アギーレ監督は、手にしたバインダーを地面に叩きつけて、そのプレーを褒める。下を向いている選手に指示を出すときは、その選手が顔を上げるまで、名前を呼び続け、しっかりと顔を見て、メッセージを送ることもあった。

「僕にとっては、アギーレさんが大声を出しても、『怒っている』という感覚はないです。『大きな声を出しているな』というだけで。それはドイツではよくあることですからね。慣れていないと『怒られている』と思うかもしれないけど(笑)。でも、アギーレさんは雰囲気作りがとても上手な監督だと思います。盛り上げたり、締めたり。それに、練習が終わると、すごく褒めてくれる。『お前もあんなにいいパスが入れられたじゃないか。このまま頑張れば上手くなるぞ』って。試合に出ていない選手たちにもそうやって声をかけてくれるんですよ」と酒井高徳は笑う。

 練習時間内での強弱のつけ方だけでなく、数日間という日々の流れの中でも変化を作っている。
 12月29日から練習は休みなしで続いた。その後オーストラリアへ到着し、2試合を消化したところで、1月6日は休養日に当てられた。事前にオフ日を設定したのではなく、選手たちの状況を見たうえでの判断だという。オフ明けの7日には、フィジカルトレーニングが行われた。数種類のメニューが並んだサーキットトレーニングを「見た目よりはキツクはないんですよ。いろんなメニューがあって、楽しかった」と遠藤が振り返った。

 また、初戦前々日の1月10日には、フットバレーなどリラックスメニューだけで練習が終わった。
「今日、こういう軽めのメニューになったのは、少し驚きました」と西川。しかし、その前日非公開で行われた練習では、「みんな集中してかなり追い込んでいたから。ちょうど良かったのかもしれませんね」と結論づけた。

 量や時間ではなく、そして型や約束事に囚われず、選手の状態を見て、メニューを決断していく。選手たちにとっても「明日はどんな1日になるのか」と新鮮な想いで日々を過ごせているのかもしれない。アギーレ監督の柔軟性と演出力は、目的を達成するためのプロセスは、ひとつではないというサッカーの根底に流れる普遍的なテーマにも通ずるように感じた。
 9月、10月、11月と過去3度の活動機会があったが、いずれも10日ほどで2試合を消化するというスケジュール。今回初めて長い合宿を実施することになったのだが、チームの雰囲気はとても良いものに感じられる。

●選手ぞれぞれのアジアカップへの想い。すべては連覇のために。

「アジアカップは簡単に勝てる大会じゃないことを知っている選手が多いのは間違いなく強みになる」
 アジアカップ4大会出場の遠藤保仁はそんな風に現メンバーについて語った。中心選手のほとんどが、4年前のカタールでの大会を経験している。そして、ブラジルでの苦い想いも味わった。
 だから、初戦の重要性を誰もが口にする。

「W杯の時と求められているものが違うから。慎重に入るべきだというのが、自分の考えです。相手はゴール前を固めてくるだろうし、そうなれば、スペースもなくなる。そのうえこの暑さですから。ミスをしないことが大事。そこまで綺麗なサッカーを求めないほうがいい。凡ミスを減らすことが、チャンスを増やすことに繋がる。いいサッカーをするよりはミスを減らすことが大事」と本田圭佑は話した。

 吉田麻也も「守備をしっかり入ることがチームの安定に繋がる」と語っている。
 消極的なわけではなく、勝利への強い執着心がリスク回避の選択に至った理由だろう。

「重要なのは相手の嫌がるプレーをすること。たとえば、常に前から守備をする必要はない。相手にボールを持たせるような状況があってもいい。それが相手にとってはイヤな状況になると思うんです」と長友佑都。日本代表がボールを繋ぎ、前がかりになった状態でボールを失い、カウンター攻撃で失点する、そんな苦い経験を何度も味わった。だからこそ、相手をその状況に追い込み、「ボールを奪って速く攻めるという形もあり」だというのだ。走力の重要性を理解しているからこそ、効率の良いゲーム運びを考える必要があると。
 
 監督が作り出した“余地”の中で、選手たちがさまざまな思考を巡らせている。彼らもまた柔軟な対応力を身につけようとしているのかもしれない。
 
「もちろん(怪我で途中離脱した)4年前の悔しさがありますし。ワールドカップでの悔しさもあります。だからこそ、こういう大会でしっかりと結果を残していきたい。それが自分に求められているものだし、日本が成長するためにはこういう大会を勝ち抜いて、そういう強さをつけていきたい」と話す香川真司は、今季ドルトムントでも勝利から遠ざかっている。
「やはりここで結果を残すこと、勝つことで自信であったり、勢いもそうですけど。そういうものがつくと思います。それが自分に必要なものだし、こういう状況を打開するのは結果で証明していくしかない。まず、代表は勝つことが大事ですし、そこに貢献していきたい。
 システムも選手もかわったわけですから、慣れるには時間も必要です。でも、このアジアカップを通して、さらに完成度を上げられるようにしたい。そのなかで、いいパフォーマンスを示していけるように、納得できる感覚を得られるようにしたい。アジアカップで自分のパフォーマンスを表現したい。自分の力を証明するのは、プロとしては当たり前のこと。でも、それはやっぱり仲間抜きではできないことですから。新しいこのチームで、どこまでできるか? それは自分に求められている挑戦でもあります。とにかく自分の良さを表現できるようにしたい」
 言葉を重ねることで、不安を振り払い、強い決意を固めているようだ。

 内田篤人に代わり先発出場が予想される酒井は、「僕は僕なりの良さを出したい」と自身の存在を強く印象つけることを誓った。

「代表への想いは常に持っているつもりだったけれど、さらに強くなった。代表に選ばれる選手は限られている。選ばれた選手は持っているものをすべて出し切らないと、チームにはなっていかない。それは簡単なことじゃないけれど、結果も内容もいいものにしながら、勝つ代表を作っていきたい」
 W杯後、一時代表から離れていた遠藤保仁は新たな使命感を抱いている。

 選手それぞれが自身の現状を踏まえ、それぞれの想いを胸にアジアカップを迎えようとしている。
日本代表は良い方向に向かっている。
 35度を越える日々の中で、そんな嬉しい手ごたえが感じられている。
 とはいえ、アジアカップ連覇がそう簡単にできるとも考えられない。連携面では課題が残っているし、理想を現実にさせることがたやすくないことは、ブラジルで十分味わったのだから、楽観はできない。
 4年前のドーハでは、幾たびものアクシデントを乗り越えながら、若いチームは信念で苦境を打ち破り、勢いを身につけ、アジアの頂点に立った。その後の4年間も純粋で真っ正直なサッカーで戦い、辛酸をなめる結果となった。そんな時間を経て迎えるアジアカップ。今度はより現実的な戦い方で、質実剛健ぶりを見せてほしい。