「ルールって実は凄くシステマティックなんですよ。自分に見えた現象を、正直にルールに当てはめていけば、単純で面白く感じると思います。」
経験のない四級審判員だった私に、とある国際審判員はそうアドバイスしてくれた。
その言葉に当てはめると、いま話題となっている判定もいたってシンプルに思える。



イスラエルで行われたサッカーの試合で、まさかのレッドカードが出された。
突然、ピッチに乱入してきた上半身裸の男が、選手のボールを勝手にけって、試合を妨害した。
怒った選手が男に先制キック、男も負けじと、けり返した。
男は、すぐに取り押さえられたが、審判が、選手にまさかのレッドカード。
「俺は被害者だ」と言わんばかりに抗議するが、審判は聞く耳を持たなかった。
その後、試合は再開されたが、怒った双方のサポーターがピッチになだれ込み、試合は延期された。(ニュース原稿より抜粋)

記事内では、「審判は聞く耳を持たなかった」とされているが、それは当然でもある。審判員は「見えた出来事に対応する」のが仕事である。選手の言い分で判定を変えることはできない。
Laws of the games第12条『退場となる反則』には、『乱暴な行為』という項目がある。それは相手選手だけではなく、『観客、審判員あるいはその他の者に対して過剰な力や粗暴な行為を加えた場合、乱暴な行為を犯したことになる』と記されている。
つまり、今回のケースでいうと、観客を蹴った行為が『乱暴な行為』とされ、退場が与えられたのだと思う。

もちろん、選手は襲い掛かられそうになったがゆえに、身を守ろうと足を出したのだろう。正当防衛という見方もできるが、足を出すこと自体が『報復行為』と捉えられてしまう。観客を相手選手に置き換えれば、襲い掛かられても、蹴り返せば両選手が退場になる。
だからこそ、主審は「観客を蹴った」という自分の目に映った現象に対し、素直に判定し、退場というジャッジを下した。

『週刊審判批評』上では、審判員である読者たちが、選手を退場にしなくても良いルールの適用はないか議論を重ねていた。だが、「判定そのものは競技規則に従うしかない。あっては困る判定です」と頭を悩ませていたように、苦渋のレッドカードが今回の判定の根底にはある。審判員にできたことがあるとすれば、観客の乱入を察知し、選手との間に入ることくらいだろうか。いや、審判員は集団の監視もしなければいけないため、それも難しいかもしれない。それでも、審判員はベストな対応を熟考する。
審判員は、決して選手の敵ではない。Laws of the gamesを元にジャッジしているだけである。


◇著者プロフィール:石井紘人 Hayato Ishii
著書『足指をまげるだけで腰痛は治る!』(ぴあ)が絶賛発売中。自サイトFootball Referee Journalにて『審判批評』『インタビュー』『Jリーグ紀行』『夏嶋隆コラム』を更新。審判員は丸山義行氏から若手まで取材。ツイッター:@FBRJ_JP。