第3回 平塚のはらっぱで

メインアー写切り抜き小


 暖かな日差しがふりそそぐ、日曜日の昼さがり。
 公園に広がるはらっぱの上では、幾つものボールが弧を描いている。
 子どもたちが父親や母親と共に、ボール遊び遊びに興じていた。サッカーと呼ぶほど本格的ではないけれど、ボールを追う子供たちは、きっとサッカーを楽しんでいる気分に違いない。
 そんな親子の輪はひと組やふた組という数ではなく、ざっと見渡すだけでも10組以上はいる。
 ボール遊びを禁じる公園も多い都心では、なかなか目にできない光景が目の前に広がっていた。その風景に少しテンションが上がった。ここはただの公園ではなく、その先にはスタジアムがあり、あと数時間でJリーグの試合がキックオフされることを思うと、ワクワクしてくる。
 ここにいる人たちがスタジアムへ行くかどうかはわからないけれど、それでも試合観戦の前にこうやってボールを蹴っている子どもたちがいるのだから。
 キャッチボールではなく、サッカーボールで遊んでいる親子の姿に、少しうらやましい気分にもなった。僕にとって理想の親子の休日がそこで展開されていた。

 3月16日午後。J2リーグ第3節、湘南ベルマーレ対コンサドーレ札幌戦を観戦するため、池袋から新宿湘南ラインで平塚駅に降り立った。
 キックオフまでには、まだ数時間あるせいか、駅周辺にサッカーの匂いは漂ってはいない。ゲームシャツを着た人の数はほんのわずかだけだった。少し残念な気持ちになりながらも、焼売弁当を買って、BMWスタジアム行のバスに乗る。バスが到着したのは、平塚総合公園内の駐車場。そこから園内を横切るようにしてスタジアムへ向かうわけだが、木立ちを抜けた途端、目に飛び込んできたのが、冒頭で紹介した光景だった。

「平塚のはらっぱ」と呼ばれる芝生のエリアでは、サッカーボールで遊ぶ親子だけでなく、お弁当を広げていたり、日向ぼっこしていたり、ゲームシャツに着替えていたりと、思い思いにその場所でのんびりとしている人たちがいる。それを目にしながら、進んでいくと、今度はズラリと屋台が並ぶエリアが現れる。
 美味しそうな匂いをまき散らす屋台には、湘南ベルマーレの緑色のシャツを着た人だけでなく、赤と黒のコンサドーレ札幌カラーを身にまとった人たちの姿も目立った。両チームのサポーターが仲良く行列を作り、並んでいる屋台もある。

 1時間もすれば、敵味方に分かれて、闘志をむき出しにするだろうサポーターたちが、和気あいあいとしている様子が心地よい。それにしても札幌のサポーターの多さには驚いた。関東在住の札幌出身者もいるだろうけれど、地元札幌から駆け付けた人たちも少なくなさそうだ。16時キックオフだから、試合終了後大急ぎでスタジアムを出れば、最終の飛行機で帰宅することも可能なのだろうか?
 そんなことを考えていると、コンサドーレのサポーターたちの野太い声が聞こえてきた。きっと選手のアップが始まったのだろう。

 サッカーの場合、応援団長的な人のことは、コールリーダーと呼ぶらしい。幼いころ、厚別のゴール裏で観戦を始めた僕にとって、コールリーダーはとても頼もしい存在だった。チームの好プレーに湧き上がった感動をさらに大きくしてくれたのも彼だったし、敗戦の悔しさや失点の落胆を振り払うかのように鼓舞してくれたのも彼だった。次々と歌われる歌や叫ばれるチャント、同じにはできなくとも、同じように手を叩き、歌い、声を出すことがサッカー観戦の魅力になった。

 東京に居を移した僕は、何度も関東のクラブを応援しようと試みた。コンサドーレ札幌のことは変わらず好きだったけれど、やはり身近にホームタウンのあるクラブのサポーターになったほうが、Jリーグ観戦も盛り上がるだろうと考えたからだ。実際いくつかのスタジアムへ足を運び、気になる選手やクラブをチェックしたけれど、不思議なことに、そうすればするほど、コンサドーレ札幌への思いが募った。赤と黒のシャツが恋しくなるし、その色を見ると落ち着いた。

 だからもう、関東のクラブを応援するのは諦めて、コンサドーレ札幌のサポーターであり続けることになった。そう決まれば、東京に居ても意外とコンサドーレを身近に感じられる。
 クラブのHPを閲覧し、けが人情報を集めている。テレビでの試合観戦では僕自身がコールリーダーだ。プレーに一喜一憂しながら、勝利をイメージし続けた。
 そして、やっとスタジアムでの試合観戦の日を迎えたのだけれど、コンサドーレの試合を見られるという喜び以前に、湘南ベルマーレのBMWスタジアムを取り囲む雰囲気に酔っていた。

 いよいよキックオフを迎える。選手たちがピッチに姿を見せるその瞬間、場内に流れたのが、湘南乃風の「SHOW TIME」だった。選手の中には、試合前に湘南乃風を聴いて、テンションをあげるという人がいると聞いたけれど、この曲はスタジアムにいるすべての人のテンションをあげる一曲だと思った。選手入場時には、歌のない曲が流れることが多く、「SHOW TIME」のようにストレートなメッセージが伝わるナンバーは珍しい。でも、この演出がスタジアムのムードを一気に高めた。

 ハーフタイムに流されたAKB48の「恋するフォーチュンクッキー」のベルマーレバージョン(選手やスタッフ、サポーター、地元の人々があのダンスを踊っている)も素敵だった。それが原因だったのか、別の表彰イベント中に選手がピッチに戻ってくるというアクシデントもあったけれど、それもまた、手作り感があって、良かった。

 そう、BMWスタジアムの雰囲気は、その周囲の公園から始まって、とにかくアットホームなものだった。メインスタンドに座る人たちの中にも、ゴール裏のコールリーダーの声にあわせて、声を出したり、立ち上がって歌ったり、手拍子をする人も多かった。多くのスタジアムだとチケット代の高価なメインスタンドに座る人は、じっと試合を見ているという感じの大人しい印象が強いのだけれど。
 試合という神聖な場に生まれる緊張感を楽しむのもサッカー観戦の醍醐味だとも思うし、統制のとれたスタンドの一体感もまた魅力的だ。
 でも、BMWスタジアムのように生活感を感じられるムードも心地良いなと感じた。まるで、子どもたちの運動会のような暖かな声援に包まれていたんだ。

 試合は2−0で湘南ベルマーレが勝利した。
 コンサドーレ札幌は、ほとんどいいところがなかった。
 ベルマーレは良いチームだった。チームとしての完成度の違いを感じた。今はまだ、J1とJ2を行ったり来たりのチームだけど、そのホームスタジアムを訪れて感じた一体感は、クラブの力になると思った。将来、平塚のはらっぱで、ボールを蹴っていた子どもたちがベルマーレでプロデビューを飾るような、そんなストーリーが生まれたら、素敵じゃないか。

<構成/寺野典子>

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●プロフィール
笹木ヘンドリクス/1988年1月8日札幌市生まれ。ヴォーカル&ギター。" ヘンドリクス " メンバーたちと共に、ライブシーンで話題を集めている。ロックの王道を背骨にしながらもあらゆる“グッドテイスト”を欲張りに取り込こもうとする雑食系ギターサウンド。言葉が突き刺さる歌とメロディラインがインパクトを残してくれる。6月11日、シングル「星のかけら」でメジャーデビュ―決定。ライブ情報などは、笹木ヘンドリクスOFFICIAL SITEへ。

デビューシングル「星のかけら」