第1回 厚別での目覚め

「ウォ〜ッ!」
その瞬間、オヤジが隣で飛び跳ねた。
青空なのに、空から水しぶきが降ってくる。
地響きのような歓声が沸きあがる。
ゾクっと背中に何かが走った。
僕は後ろを振り向いた。右を見て、左を見て、驚いた。
大人たちの顔がピカピカに光っている。
こんなにたくさんの笑顔を一度に見たのは、初めてだった。
歓喜に包まれるというのはこういうことなのか、と今は思えるけれど、当時まだ小学生だった僕はただただ驚くだけだった。
しかし、サッカーの虜になるには十分の感動と感激だった。

sasakiこんにちは。はじめまして、僕は笹木ヘンドリクスといいます。ロック・バンドをやっています。昨年末に『GOLD ANTHEM』というアルバムをリリースしました。タイトルに“アンセム”という言葉を使った理由のひとつに、僕がサッカー好きだというのがあります。

サッカーを愛するロック・ミュージシャンは世界中にたくさんいますよね。僕もその一人というわけですが、特別なサッカーマニアでもないし、サッカーの上手な子どもだったわけでもないんです。

正直な話をすると、子どものころサッカーをやろうとしたんですが、怪我ばかりしてしまうので、高校生のときは野球部でした。でも、坊主頭にしたとき「これは球児仕様じゃなくて、小野伸二の髪型を真似ただけなんだ!」と言い張っていました。そう、野球をやってはいましたが、小野伸二へのリスペクトは変わらなかったんです。彼のプレーを見て、“ファンタジスタ”という言葉の意味を体感していたからです。敵ながら天晴というプレーを何度も見せつけられていたから。

話、脱線しましたが、僕は職業がミュージシャンというだけで、たぶん、本当にただサッカーが好きな男でしかありません。そんな僕がサッカーを見て感じたこと、サッカーのある風景について、サッカーがらみのお話をここで書かせてもらうことになったんです。

正直、僕でいいのか? という不安はあるものの、サッカーの話するのは、楽しいんで、やらせていただこうと決意した次第でございます。お付き合いいただければ幸いです。

1993年にJリーグが発足したとき、僕が生まれた札幌市でもJリーグ人気に火がつきました。デパートのスポーツ用品売り場には、各クラブのグッズが並び、子どもたちは自分の好きなクラブのキャップをかぶっていました。僕はなぜか鹿島アントラーズ。そう、ジーコが大好きだとか、明確な理由はなかったんです。だけど、笹木くんはアントラーズだったんです。

いろんなクラブが札幌で試合をやってくれていたけれど、いつもテレビ観戦でした。カズさんのダンスを真似たりだとか、そういうこともみんなとやっていました。で、サッカーをやってみるけれど、怪我が続くという残念な少年だったのです。サッカーも好きだけど、当時から歌うことや音楽への興味も生まれていたので、残念な少年時代だったわけではありません、念のため。

「サッカーを見に行くぞ」
ある日、父がそう言いだして、僕は弟と一緒に厚別公園競技場へでかけました。座ったのはゴール裏。大勢の大人たちが大声で歌っている光景は、なかなかショッキングなシーンです。でも、熱狂という言葉も知らない子どもだったけれど、その渦の真ん中にいるのは、気持ちのいいものでした。

今回、改めて、自分がサッカーを好きになった原体験について考えてみたとき、思い描いたのが、冒頭で紹介したシーンです。これはゴールが決まったときの話です。空から降ってきたのは、誰かが投げたビールかジュースが飛散したものでした。

小学生の僕にとって、サッカーのファースト・インパクトは、ピッチ上の現象ではなくて、それを囲むスタンドの熱狂だったわけです。

誰かのプレーに心を奪われるのは、まだ先の話で、とにかくゴール裏にいることが、当時の僕にとってサッカーだったんだなと思うと、なんだか不思議な気分にもなります。でも、そういう経験が出来たのは、Jリーグのクラブが札幌にあったからこそ。Jリーグがなければ、コンサドーレがなかったら、これほどサッカーを好きになれたのかなぁとまでは思わないけど、サッカーを愛している僕の根っこが厚別にあるのは、事実です。

もちろん、スタジアムで味わうのは喜びだけじゃありません。敗戦の悔しさに唇をかむ大人たちの姿、人間に喜怒哀楽がぶちまけられるスタンドの空気は、自分の街にクラブがあるからこそ味わえるものだと思います。だから、札幌にコンサドーレがあることを僕は本当に幸せだと感じています。

そして今、東京に暮らし、世界のサッカーに興味を広げながらも、コンサドーレのニュースに一喜一憂できること。コンサドーレを愛せることを誇りに感じています。

数千人、ときには数万人の人たちがひとつになって、選手の名前をコールする。そんな風に自分の名前を呼ばれたら、どんなに気持ちがするんだろう、きっと気持ちがいいに違いない。

スタジアムへ行くといつもそう感じます。以前、OASISのライブを見に英国サッカーの聖地、ウェンブリースタジアムへ行ったときも「ここでプレーして、大観衆に名前をコールされる気分はどんなものだろう」という気分に包まれました。

だから、「プロサッカー選手になってみたい」と思ったこともあります。
いいゴールが決められて、仲間の祝福の輪に囲まれた時、このままサッカーをしてお金を稼げたら、どんなに幸せだろうと、考えたわけです。サッカーをしても怪我をしなくなった、大人になってから抱いた夢です。20歳のころの話です。大人が描く夢じゃない? いやいや、夢は子どもたちだけのものじゃないから!

構成/寺野典子

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●プロフィール
笹木ヘンドリクス/1988年1月8日札幌市生まれ。ヴォーカル&ギター。" ヘンドリクス " メンバーたちと共に、ライブシーンで話題を集めている。ロックの王道を背骨にしながらもあらゆる“グッドテイスト”を欲張りに取り込こもうとする雑食系ギターサウンド。言葉が突き刺さる歌とメロディラインがインパクトを残してくれる。笹木ヘンドリクスOFFICIAL SITEにて、視聴可能。


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