■勝ちきれない問題

「3点目が取れる試合だった。相手も後半はメンバーを落としていたし、勝てなかったことが本当に残念だった」

 11月16日のオランダ戦、前半に2失点するものの前半終了間際に1点を返し、後半には何本もパスを繋いで同点弾を決めた。しかし、試合後、引き分けたことを悔やむ選手が多かった。後半から途中出場した遠藤の言葉は厳しいものだった。

「今日も勝たないといけない試合だったし、後半のビッグチャンスはうちらのほうが多かったし、勝ちきらなくちゃいけないとは思います。いい形もどんどんできたので、ゴールを決める、決めないは、シュートを打つ選手の精度の問題なので。ビッグチャンスが(柿谷)耀一郎とかにもありましたし、それは本人が一番わかっていることだと思うので。チャンスをたくさん作れたのは前向きに捉えていいと思う。前半にバックパスから失点したけれど、それまではうちらのペースでやっていたので、あぁいう何でもないミスをしてしまうと、2−0とか3−0になる可能性もあるので、前は精度を高めてやっていかなくちゃいけない」

 夏の東アジア選手権以降、出場機会を得ながらもゴールを決めていない柿谷。しかし、彼への期待は高まる一方で、徐々にそれが彼にとってのプレッシャーになっているのではないかと感じる。オランダ戦での先発起用に応え、1ゴール1アシストと結果を残した大迫の存在もまた柿谷にのしかかっているのかもしれない。

 後半28分に大迫に代わりピッチに立った柿谷は33分、香川からのパスを受けてGKと1対1という絶好のチャンスを迎えたがシュートは枠を外れてしまった。
 終了の笛が鳴り、肩を落とすか柿谷の元へ歩みより、その肩を叩いていたのが清武だった。


■清武――焦れずにチャンスを待つ

 試合翌日の練習で、そのことについて清武に訊くと、「少ないチャンスをモノにしたいと言っていたから」と柿谷の悔しさを代弁するように語った。
 自身も先発出場しながらも目立った仕事ができなかった。コンフェデ杯のブラジル戦同様に相手エースのサイドに立ち、ロッペンを気にしながらのプレーを求められた清武。

「相手の勢いもある前半の45分間というのは、難しい時間になると思っていました。ロッペンになるべくやられないようにと考えながら、攻撃にも絡んでいきたかった。確かにクラブで求められる仕事と代表とでは違いますけど、そこは臨機応変にやれたら良かったんだけど。最初から自分が出るのは前半だけだろうという気持ちはあったし、そういう中で立ち上がりの2回チャンスがあったので、そこで決められていれば……」

 開始4分と6分にシュートチャンスに絡むプレーを見せた清武だったが、その後はボールを触る機会もわずかだった。ニュルンベルクと代表では、ポジションも違えばサッカーも異なる。しかし、清武はそのことをネガティブにはとらえてはいないようだ。

 ベルギー合宿中に記者団からは、MFのレギュラー争いについて、問われる機会が多かった。実際彼の立ち位置は、岡崎や香川の代役と言っても過言ではないだろう。勢いのあるコメントを求めるメディアを清武はさらりと交わしていた。彼の振る舞いからは、現状に対する焦りを感じることはなかった。

 2011年夏の韓国戦、岡崎の負傷により急きょ出場機会が巡ってきた。そこで2アシストと結果を残した。この韓国戦をザッケローニ監督は、「自分たちらしいサッカーができた試合」と評している。そんな指揮官からの篤い信頼に応えるためにも、平常心でいることが大切なのだろう。

 そんな清武の姿は、2006年大会チームの遠藤や22010年大会チームの松井大輔と重なる。自身の現状に対しての思いは内に秘め、淡々と与えられた任務をまっとうしていた彼らは、のちに大きなチャンスを迎え、結果を残した。

 数週間前に会った松井は本大会1年前の欧州遠征には参加していないし、韓国との壮行試合も怪我で欠場している。それでも本大会初戦に先発し、決勝ゴールをアシスト。
「大事なのは、ピッチで何ができるかだから」と3年前を振り返っていた松井の言葉を清武に伝えると、彼は、表情を変えることなく答えた。

「ずっと試合に出ていてもW杯で出られなくなる選手もいるだろうし、またその逆もありますから。たとえ、今、試合に出られなくても、代表の一員であることで、学ぶことはたくさんありますし、自分にとって、価値ある時間だと感じているので、充実した時間が過ごせています」

 そんな会話をしたのは彼の24歳の誕生日だった。
 穏やかな表情の裏には当然、闘志が隠されていることもわかる。ギラギラと闘志を燃やし、それを表現することが得策でない場合もある。プレッシャーによって空回りしてしまうのは、どんな選手にも起こりうることだ。代表の一員として過ごす日々による自身の成長を実感しているからこそ、清武は焦れずにチャンスを待つことができる。


■西川――アウェイ初先発を楽しむ

「今日は試合の入りから、とことん楽しまないと損だなと思っていた、A代表のアウェイで試合に出たのは初めてで、いつもチームメイトが感じているんだなというものを自分もピッチで感じられた。前半で2点を入れられて、屈辱的な気持ちを試合で感じられたのは逆にうれしかった。本当に楽しかった。試合がもっと続けばいいのにと思っていた」
 オランダ戦後、意気揚々と話したのは西川だった。自身の持ち味でもあるでも、 “繋ぐ”プレーを意識して試合に入った。

「試合前にも繋げられたら繋いでいこうという話をしていた。自分へボールを出したあとにもう1回動いてくれとか。ちょっとしたことなんですけど、1歩2歩動いてくれることで、パスコースも増えますから。デカい相手に無駄に蹴ることは少なかったので、今後もそういう意識でやってくれたらいいなと思います。前線へのパスはサイドを狙うこともあるし、(本田)圭佑にあててというイメージもある。ゴールキーパーから楔を入れるイメージです。自分は所属チームでもそういうサッカーで、すごく楽しいので。GKとして守るだけじゃなくて、攻撃参加という面を今日は出そうと思っていたので。オランダもかなり繋いできたけど、ミスしてもトライしていく姿勢は素晴らしいなと思いました」

 実際、DFラインのバックパスを受けて、見事なキックでサイドチェンジする場面もあった。吉田も西川との関係について次のように話している。
「周くんは繋ぐ意識が強いので、僕も受ける意識も高くもってやった。多少、厳しい状態でもパスを出してくれるのでやりやすかった。キーパーも含めてビルドアップできれば、オランダとかがやっているように、ああいう風にやれたら、相手の FWのチェイシングもシンドイだろうし、やっぱりそこは大きな違いかなと思います」

 スーパーセーブを連発するというような派手なプレーはなかった。「まだまだ」と言いながらも、西川はやっと自身へ廻ってきたチャンスを満喫したようだ。
「最近負けが続いていたし、僕個人のプレーというよりも、試合に負けなかったという事実が良かったなと思います」
 2失点から同点へ追いつき、試合を終わらせる。勝てなかったことも事実ではあるが、西川の言葉通り、負けなかったこともオランダ戦で評価すべき点だと思う。


■危機意識が生んだ一体感

 逆転のチャンスは何度も訪れていた。後半になり、アンカーを務めていたデヨンクが怪我で退いたオランダに対して、日本は前線からプレッシングをかけ、両サイドも攻め上がり、敵陣へとボールを押し込んだ。相手のボールホルダーに対しても、丁寧に根気強く守備をしてカウンターを許さなかった。オランダは荒れたピッチにパスの精度を欠き、攻撃の糸口すら見つけることができなかった。そして時計の針が進んでも、日本は下がることなく高い位置で時間を使い続けた。課題であった試合運びの拙さがわずかに改善されたとように思える試合だった。終盤の戦い方について吉田に訊いた。

「相手のメンバーが変わったことも大きい。デヨンクがいなくなって、オランダは前へボールが配給できなかったというのもある。日本もボールをポゼッションすることができて、長い時間僕らがボールをまわしながらも、相手のカウンターの芽を高い位置で摘めたというのは大きいかなと。全体的にみんなコンディションが良かったし、前へボールをチャレンジする回数が多かった。最後裏にボールが出て終わる場面が多かったので、カウンターも少なかったし、攻めきる形が多かったのはよかったかなと思います」

「負けなかったことを評価できるんじゃないのか?」と清武に訊くと、すかざす「相手が極端に落ちたなかで、勝たないといけなかった。勝てる試合だったとみんな言っていたし、みんなの気持ちが入った試合だった。相手がメンバーを落としていたけど、勝ちきらないといけないなと思いました」と答えた。

「今日は選手全員が裏への意識があり、サイドの幅を意識した攻撃ができていた。守備も連動していた。選手全員が同じ方向を見て、同じマインドでプレーしたことが良かった。今日はオランダと引き分けたというより、チーム全体が同じ意識を持って戦えたところに意味がある。これを継続していかないと意味はない」
 選手それぞれの立ち位置は違っても、長谷部の言葉通り、共通意識を抱いて選手たちは戦えた。10月の東欧遠征2連敗という危機感が、「自分たちのサッカーで結果を得る」という原点に立ち返らせたのだろう。そんなチームの土台を支えるのは、ピッチで躍動する選手たちだけでなく、ベンチであってもブレずに黙々と汗を流す選手たちの存在なのかもしれないと、清武や西川の姿に改めてそう感じた。
 
 想定された先発メンバーから4人を入れ替え、早いタイミングでの選手交代で多くの選手を起用したザッケローニ監督もまた周囲の雑音に動揺することなく、自らの哲学をチームに訴え続け、選手たちの覚醒を待った。そして、長くチームに不在だった大迫という“ラッキーボーイ”を手に入れた。

「1試合では評価はできない。今日で満足していたら、次の試合はないと思う。次の試合が勝負になる」
 そう語る長友にはオランダ戦後も安堵の表情なかった。
 中2日の強硬日程で迎えるベルギー戦。善戦したオランダ戦の流れを継承するのか? コンディションを優先させた選手起用となるのか? 指揮官の選択に注目したい。