J1昇格プレーオフを初導入した今季のJ2は、11月11日にリーグ戦が終了。通常シーズンに比べると3週間ほど早い。とはいえ、リーグ戦やプレーオフを終えても11月いっぱいはトレーニングを行っているクラブが多い。天皇杯を敗退しているチームの中にとっては、微妙な時間なのかもしれない。来季の契約延長がなく、チームを去る選手もいっしょに練習している。複雑な空気が漂うのも無理はない。

 続投が決まった山口だが、来季へ向けた話には、言葉が重くなったのは、そんな空気が影響しているのかもしれない。共に戦った選手との別れもまた新人監督にとって、初めての経験なのだ。

 山口自身も選手時代に「戦力外通告」を受けた経験をしている。そのときの思いが生々しくよみがえるのかもしれない。
 現役時代の経験は、指揮官としての姿勢にも色濃く反映しているはずだ。

「練習で100%出せなければ、試合でも出せない」と要求したうえで、「平等な競争」というキーワードをあえて口にしたのも、監督の自分が選手をどういう目で見ているかというスタンスを示したかったからだろう。とはいえ、明確な数字で評価を下すのが難しいサッカーというスポーツにおいて、選ばれなかった者たちが不満を口にするケースは少なくない。しかし、山口は就任以降、所属選手の約9割の選手を起用している。多くの選手にチャンスが与えられたことが伺える。そこからも競争の平等性が保たれていたのだろうと想像できる。

 就任直後のインタビューでは「選手それぞれに性格が違うし、態度や行動を見ただけで、選手を判断しちゃいけない。今の若い子はこっちが背中を押してあげなくちゃいけない部分もある」と話していた山口。選手の潜在能力を引き出すために心を砕いたからこそ、より多くの選手をピッチへ送り出せたのだろう。

――監督は引退後はテレビのサッカー解説などで、“話す”仕事をされていたわけですが、監督もまた言葉を駆使する職種だと思うのですが。
「テレビでの解説の仕事の場合、試合の状況を伝えるにしても、出来るだけ詳しく丁寧に、多くの情報を話し、説明しなければなりません。でも、現場(監督)の場合は、すべてを説明してしまうとダメなケースも多いんです。選手自身が考えなくてはいけないので、『教え過ぎ』はダメだなと。また、僕自身は『監督が言う通りにプレーして欲しい』とは考えていないから。そのあたりで、どこまで話すのかという難しさはありますね」

――言いすぎたなと感じたり、言い足りなかったなと感じたり、試行錯誤があったと。
「そうですね。試合を前に、『相手はこういうスタイルで来るから、こちらとしては』と説明し過ぎたことで、『選手に強く意識させ過ぎてしまったな』と、試合中や試合後に感じることもある。同時に伝え足りなかったことも。いろいろありますよ。だから、いくつかの選択肢を得られるトレーニング、準備をしておけば良かったと思ったり」

――試合と試合の間の準備期間は、選手時代とは違う時間の流れなのでは?
「どうでしょう。うちは試合の翌日に練習試合やダウンメニューのトレーニングがあるので、日曜日試合、月曜日練習、で、火曜日がオフというスケジュールなんです。試合の翌日はまだいろいろと考えていますね。負けたりうまくいかなかったことを後悔したりもするし、試合の映像を見て、『でもここは良かった』と感じる部分があったりして。でも、オフの一日で結構気持ちは切り変わっていますね。『こういう準備をしておけば良かった』という思いも『じゃあ、こんな練習をしよう』と変わるので、水曜日はすごく朝早く起きてしまう(笑)。早く練習がしたいという感じですね。面白いもので、負けたり、うまくいかなかった試合のときのほうが、修正点も見つけやすいので、気持ちも早く切り変わるんです。いろいろ考えるけれど、解決策も見つかるので」

――勝利の喜びは現役時代と違うものはありますか?
「違いますね。選手時代は試合に勝っても、内容を求めるというか、個人的に『こうすれば良かったのに』とか、いろいろな思いがある。もちろん監督になっても内容は求めているけれど、内容が悪くても勝てたら、『良し』という気持ちになります。攻め込まれてキリキリしながら、耐えて耐えて勝利を掴めることもありますし。試合終了のホイッスルを聞いた瞬間のホッとした感じは、今のほうが強いですね。そしてそのあとで、内容のことをいろいろと考えるんです」

――選手のことを褒める監督ですか?
「選手次第ですね。怒っても大丈夫な選手には徹底的に怒ります。怒ると萎縮する選手もいるので、そのあたりは彼らの性格を見て、判断します。なかには褒めないと伸びない選手もいるだろうから。そのあたりは現役時代にいろいろなクラブでプレーさせてもらえたので、接する選手の数も多かったし、いろいろなタイプの選手を見てきたので」

――先発メンバー、ベンチ入りのメンバーを選ぶ作業は大変ですか?
「それが一番大変ですね。競争させるということを言っているわけだし、彼らの様子を観察し、同時に試合相手やチーム状況なども考えたうえで、決めることになる。最初のころは怪我人が多くて、それほど苦しまない試合もあったけれど、復帰する選手も増え、成長した選手も増えてくると、本当に考えました」

――文字通り嬉しい悲鳴みたいな感じなんですね。メンバーを外した選手に声をかけますか?
「話をするほうだとは思います。でもそれも選手の性格やタイミング、状況を考えたうえでですね。前の試合に先発だった場合などは、話さなくちゃいけないと思うし。でもあえて話さない場合もあります。選手から『どうして外れたのか?』と聞きに来てほしい場合や、自分自身で気がついて欲しい場合もあるので。もちろん言わなくても分かっている選手もいるので」

――話すタイミングも考えると。
「たいていは試合翌日だったりしますけど、少し考える時間を持ってほしいと思うときは、オフ明けに話をすることもあります」

――監督経験がないということで、迷うことも多かったのではありませんか?
「逆に経験がないから『俺にはこれしかないから』という気持ちになれる。最初勝てなかったときも『俺はやり方を変えるつもりはない』と思っていた。当然結果が出なければクビになるという覚悟はありましたが、まあそれは、僕が決めることではないので」

――監督業は大変ですか?
「大変と言えば、大変ですけど、大変じゃない仕事なんてないでしょう? ただやり甲斐を感じられているのは、非常に嬉しいことですね。だけど、現役でずっとやれるのなら、現役が一番ですよ。プレーオフでもこういう場で自分ピッチで戦いたいと思いましたから」

――監督業はご自身に向いていると感じましたか?
「まだ8カ月しかやっていないのに、向いているとか言ったら笑われますよ」

――シーズンを終えた今、ホッとしていますか?
「実はまだそういう感じはないですね。トレーニングもやっているので」

――来季の準備というのは?
「具体的にはまだ何も考えてはいません。来季はトレーニング・キャンプからチームを指導できるので、いろいろとやりたいことはあります。まあ策を練ります」

――秘策ではなく?(笑)
「フフフフ」

 山口素弘の監督としてのファースト・シーズンは、申し分のない結果だったと言っても問題はないだろう。山口は、ブレのない姿勢でサッカーと向かい合っていた。選手個々に気を配り、スタッフの力を借りながら、彼は彼の信念を貫いた。結果が彼の仕事をあと押ししてくれた部分も当然ある。勝利こそ一番の良薬となる。もちろんチームを勝利へ導くに値する仕事を新人監督が実行したことも事実だ。
とはいえ、来季、2シーズン目がうまくいくとは断言できない。

 ファースト・シーズンにはなかった試練と苦悩が待っているかもしれない。努力した時間がそのまま勝ち点へ繋がるものでもない。それがサッカーだ。そしてそれは山口自身も十分にわかっているだろう。
 でもだからこそ、来季の横浜FCが楽しみになる。【了】

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