81分に岡崎慎司がベンチへ下がった直後、セットプレーからシュトゥットガルトの同点弾が決まる。ゴールゲッターはカカウ。ベンチからスタッフや選手が飛び出して歓喜の輪ができるが、そこに岡崎の姿はなかった。

　９月23日ブンデスリーガ第４節、ヴェルダー・ブレーメン対シュトゥットガルト戦。岡崎と共に酒井高徳も先発出場している。しかし、岡崎のポジションが通常とは違った。４−２−３−１の左右のアウトサイドでプレーすることが多いが、この試合では中央にポジションを置いているように見える。けれど、試合の流れによって、彼の位置はコロコロと変わる。カカウ、岡崎、ハルニクに加え、トルンと４人のFW登録選手が前線に張り出し、４トップに見えるシーンも多かった。そして４人のポジションチェンジも激しい。攻撃時にはそこへ右SBの酒井も高い位置で攻撃に参加するため、ボールを失うと相手のカウンター攻撃を受けるピンチを招くシーンも続いた。

　そして23分、ブレーメンに先制点を許す。33分には岡崎がフリーでヘディングシュートを放ったが、決められなかった。後半にも56分、60分と決定的かと思われたシュートチャンスでもゴールを外した。特にこの試合で２度のヘディングシュートのチャンスを外したことは、意外だった。

「１本目はきれいなボールでイメージ的にはよかったけど、自分のイメージとゴールがちょっとずれていた。当たりはよかったんですけど、もっと首を振らないといけなかった。FWとして試合に出ていなかったので、今、その感覚を取り戻そうとしているんです。シュトゥットガルトへ来てからの１年半はずっと試行錯誤のくり返しだった。MFとしてチーム全体のバランスに気を配りプレーしてきた。もちろんサイドでプレーすることで得られるものもたくさんあるけれど、自分はFWとして、勝負したいという気持ちでドイツへ来た。このままサイドでプレーし続けて、小さくまとまってしまうのもイヤだし、やっぱり評価を得るためにはゴールを決めなくちゃいけない。（９月２日第２節）バイエルン戦が終わってから強くそう思った」

　２−２で終わった試合後の岡崎のコメントに驚いた。
　彼が話すバイエルン戦は６−１と大敗した試合だ。そのうちの１失点は中央よりやや自陣よりでパスを受けた岡崎が次のプレーを躊躇している間にボールを奪われて、そこから攻撃が始まってしまった。試合後には「試合を壊してしまうような大きなミスをしたのは、初めて」と強い反省の念をにじませていたが、「でも、自分があそこへ下がってボールを受けて、そこからどうするかということはやり続けていきたいと思うから、そういう意味で、この経験は、自分のこれからの人生を考えたら大きい」とも話していた。

　しかし、バイエルン戦後の岡崎のコメントで、印象深かったのは、「ボールを受けて、預けて、動きだすという意味では、いい動きもできていたけれど、やっぱり見てもらえてないから、パスが出てこない。パスさえ出てくれば、裏へ抜けられるという感じの場面が結構あった。そういう意味ではまだまだ自分をわかってもらえていないのかなと思う」という言葉だった。

　今シーズンも同じ監督のもと、それほど大きなメンバーチェンジもなくスタートしたが、シュトゥットガルトは昨季、一昨季同様にシーズン序盤戦で苦しんでいる。前半戦が終わるころは下位に沈み、後半戦で盛り返すのは、ここ数シーズンのお決まりのパターンなのだ。

　シュトゥットガルトのサッカーは、どちらかと言えば、選手個々の能力で突破していくサッカー。だから、波に乗れば強いが、そのきっかけがつかめないとズルズルと悪循環に陥る。ハルニク、カカウという強引なストライカーたちの爆発力はチームにとって重要な武器だが、組織のバランスを崩す場合もある。そんなチームのバランスを岡崎は気にかけてプレーし続けてきたのだろう。

　岡崎のシュトゥットガルト加入の後押しをしたのが、2010年のアジアカップでのプレーだと言われている。だから、ドイツでも日本代表と同じ４−２−３−１のシステムの中で、左右アウトサイドでの起用が多かった。しかし、日本代表とシュトゥットガルトではメンバーも違えばサッカーも違う。代表のようにシュートパスを繋いで、組織で崩していくというシーンを期待していても、シュトゥットガルトではパスが戻っては来ない。
　そのうえ、岡崎は先発の座が約束されているわけでもない。指揮官の評価を得なければ、出場チャンスも手にはできない。だからこそ、今一度自身の原点に戻り、FWとして今まで以上に強くゴールを意識しようと考えたのだろう。

　ドイツへ移籍以降、対人での身体の使い方やポジショニング、ボールを引き出す動き方など、岡崎が成長した部分はたくさんある。しかし、彼の代名詞とも言われていたダイビングヘッドや中央で仕事をするというシーンを見る機会は減ったのかもしれない。

「代表戦が終わって、チームへ復帰してからは、練習でもFWとしての動き、ゴールまでのプロセスを意識してやっている。４−４の対人練習でも以前なら、少し下がったところでボールを受けて、バランスを考えてプレーしていたけど、今は前でパスを待つことを心がけたり、練習後にも自主練習として、シュート練習をしたり。今まではFWとしての練習をやれてなかったから。そんな風に僕が変わろうとしてくれていることを監督が察してくれたから、今日は２トップの一角として起用してくれたんだと思う」

　ブレーメン戦、シュトゥットガルトは４−２−２−２という形で挑んでいたのだ。岡崎はカカウと共に２トップを組む。しかし、冒頭でも紹介したように、前線の４FWがイメージを共有できる場面は少なく、カウンターにさらされて守備に追われるという後手後手の展開が続いた前半は「非常にやりにくかった」と岡崎。後半右MFにそのポジションが本職であるトラオレが投入されると、自由に動き回っていたハルニクやカカウのポジションが固定され、右からの崩しの形が何度も訪れた。

「後半は理想的な流れが何度もあった。自分もボールを受けて、サイドにあててから、仲へ入っていくとか。サイドで起点が作れれば、いい形ができると思うので。だからこそ、後半のシュートチャンスを決めなくちゃいけなかった。ただ、なんか思い出しました。FWっていうものを。ゴールのにおいもそうだし、後ろからも前からもDFがくるっていう。サイドだとフリーでもらえることが多かったから甘えていた部分もあったし。でもドイツのDFを相手に、自分でどうにかするっていうのをすごく感じた試合だったので、いい一歩だったかな。悔しい一歩でもあるし。もう一回海外でFWとして挑戦するきっかけになればいいかな」

　２トップでの起用は、岡崎にとってビックチャンスだったはず。しかし、そこで結果が残せなかった現実。それは前向きに変わろうとしている今だからこそ、大きな意味を持つだろう。指揮官の目にこの日の岡崎のプレーがどう映ったかはわからない。いつも以上にシュートチャンスに絡んでいたことを評価してもらえるのか、それとも外してしまったことで評価を下げるのか？　それでも岡崎は前向きに試合をとらえているようだ。

　ポジションに関係なく、常にゴールのことだけを考えているかのように強引にプレーし、結果を残すライバルたちの存在も脅威だ。しかし、だからと言って、汗かきやバランサーのままでは、競争には勝てないのだ。

「今までは我慢して、バランスとってチームが勝つためにとやっていた。今日もそうだけど、やっぱりゴールを決めてくれるからね。それがうれしくもあり悔しくもある。俺もここで負けたくない。ここのやりとりで負けたらだめですよ。彼らがバシバシ点決めるじゃないですか。でも俺もそこで負けない。俺もバシバシ点をとって、俺がストライカーのポジションとらないと。やっぱ決めなきゃいけない。いやー、悔しいです。悔しいけど、クロスからこういうシュートを撃てたのは久しぶりなんで、こっからです。ここから量産したいです」

　たとえ、チームのシステムが４−２−３−１へ戻り、再び左右のアウトサイドでプレーすることになったとしても、ストライカーとしての感覚を取り戻そうとする日々が、岡崎を進化させるに違いない。
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