9月6日、新潟ビッグスワンスタジアムで行われたキリンチャレンジカップ日本代表対UAE代表戦。結果は1トップで先発したハーフナー・マイクが後半24分に駒野の左クロスから沈めたヘディングのゴールで、1−0で日本代表が勝利した。W杯最終予選のイラク戦を11日に控え、登録メンバー23名中、欧州組12名を招集した今回のA代表、ヨーロッパの各リーグが開幕し、所属クラブでそれぞれのスタートを切った選手たちのプレーに自然と注目が集まった。

 欧州組の中には、香川のように移籍したマンチェスター・ユナイテッドで早くもチームの中心となりつつある選手もいれば、長谷部のように夏のマーケット終了までに移籍先が見つからず、なかば戦力外のような立ち位置でシーズン開幕を迎えることとなった選手もいる。しかしながら日本代表としてピッチに立つ以上、所属クラブでの状況などはほぼ関係ない、日の丸を背負って目の前の試合とそれぞれの役割に全力を注ぐのである。そうはいってもUAE戦の長谷部の出来はどうしたものか。

 ザッケローニ監督も試合勘を取り戻すことを望んで「長谷部は90分プレーさせる」と言ってはいたものの、結局前半のプレーのみで交代してしまった。いまや日本代表「不動のキャプテン」と称されるようになった長谷部であるが、アジアカップやこれまでの予選で見せてきた、プレーでチームを締める彼の姿からはほど遠く感じたのも事実だ。

 特に試合中に気になったひとつのシーンがある、CB吉田からの縦パスをもらった長谷部がトラップをミスしてボールが流れてしまったシーンで、吉田は長谷部のミスに対して天を仰いで怒っていた。欧州組として普段から仲が良いとされる2人だが、吉田がこの夏にプレミアリーグへステップアップに成功した背景もあって、吉田が長谷部に対して、「そのくらいのプレーはやってくれないと困るよ」といったような要求が込もっていたように思うし、誰よりも長谷部自身が今日のプレーに対して納得は出来ていないだろう。

 5日後のイラク戦でもザッケローニはこれまで通りのボランチ構成で臨むのか、キャプテン長谷部は彼自身のプレーを少しでも取り戻せるのか、そこにも注目していきたい。

 試合内容を振り返ってみると、トップにハーフナー・マイクを起用しておきながら、そのFWのストロングポイントを生かすような攻撃の組み立てがあまりに少なかった前半のスタイルも気がかりである。現在のA代表のエースである本田と香川を中心に細かいパスをつなぎながら攻撃の流れを作って行くというスタイルは、ことFWに関していえばハーフナーのように1トップでどっしり構えているFWよりも、前田や李のように中盤もしくはゴール前で細かい繋ぎに加われることや、サイドに流れて2列目の選手が走り込むスペースを作るような動きの出来る選手の方が明らかに攻撃にリズムがうまれる。UAE戦の前半では、ブロックをしっかりと作り守ってくる相手にポゼッションはできるものの、特に前線の選手たちの流動性が欠けていたようにも見えるし、2人での連動はあってもその後に追い越していく選手、つまり3人目の動きからのシュートシーンはほとんど見られなかった。

 もちろん湿度の高い日本の夏でのプレーに海外組のコンディションが万全であったかと言われたら、単純に運動量や動きのキレでまだまだなところはあって当然ではあるし、SBにもっと前線の選手を追い越していく動きの「回数」があってよかったとは思う。しかし連動性をもってフィニッシュまで持っていくことの少なかった前半の攻撃はじつに単調で、本田や香川が個の力でシュートに持っていき会場を湧かせたくらいではないか。ハーフナーを1トップに置いている意味を感じさせる攻撃の徹底さはなかったように見えた。本田がアジアのレベルにおいてボールをなんなくキープ出来ることはもう周知のことであるし、流れを掴むきっかけとしても身長の高さを生かしたロングボールをバックラインもしくはボランチから入れて、2列目の選手がそれを狙ってシュートまで持っていくようなシーンをもっとトライしてもよかったはずである。

 またザッケローニがあくまで、連動や流動性のある崩しで得点を奪いたいという哲学があるのであれば、UAE戦の前半の攻撃で唯一「それ」を見ることがができたのは2分、右サイドでボールを受けた清武がオーバーラップしてきた右サイドバック酒井宏樹を使うようにフェイクをいれ、なかに流れながら、斜めの動きでペナルティエリアに走り込んできた香川に縦パスを当てたシーンだけだった。香川は清武からのボールに対してヒールを使ってダイレクトで本田に落とし、シュートで攻撃を終えた。一連の流れはとてもスムーズであったし、前半序盤で、全体的にスペースに余裕があったとはいえ、そういった攻撃が現在のA代表の最も見ていて楽しいスタイルだと感じる。

 個のレベルが上がったことで、創造性に溢れた崩しや、長友や酒井、駒野といったSBがスピードに乗って前線に絡んでくる仕掛け、ダイレクトプレーが入り相手を崩していく攻撃スタイルは単純に見ていて面白い。UAE戦では結果的に後半に入ってからサイドからの攻撃が多くなり、特に岡崎の入った左サイドからの仕掛けるシーンやSBとのコンビで崩す形が見られ、駒野の正確なクロスから得点がうまれた。地元新潟でA代表デビューを飾った酒井高徳と、岡崎との連係も思い切りがあっていい印象だった。だが結局それは、香川がいなくなり本田がいなくなり、本来の先発メンバーが退いてから個々で勝る局面でのシーンが得点という形に結びついたわけである。A代表が確立していきたい日本の攻撃スタイルというものがそこにあったとは一概にいえない内容であったと試合を通じて感じたし、起用された選手のストロングポイントによって臨機応変にトライしていく姿は、A代表が今後アジアで圧倒的な力を持っていくために必要なことであると思う。
 
 また、オリンピック組からこの日スタメンに名を連ねた清武と酒井宏樹の右サイドの2人のプレーにも注目していきたい。特に清武は上述したプレーのようにFWや前線に流れてきた選手に対して当てる縦のパスの質がとても高く、常に姿勢の良いボールの持ち方が出来る選手なので、相手DFの嫌なところにくさびを正確に打つこと、ボールを流し込むことができる。さらに、昨年のA代表デビュー戦となった韓国戦から見ていても感じるのが「香川との相性の良さ」である。常に香川の動きを見ながらプレーしている印象だし、香川はその相手の嫌なところ、危険なエリアにスルスルっとポジション取りが出来る選手であるので、そういった出し手がいることで香川の良さが生き、必然とチャンスがうまれる。もともとセレッソでプレーを共にしたこともありお互いの良さをよくわかっているのであろうが、この2人の連係に絡んでいくプレーを求められるのは本田であるが、今回はまだそのあたりは不十分で、ゆえに得点シーンまで到らなかったと思える。

 また今回のUAE戦ではポゼッションのなかでボランチがサイドの高い位置に流れたり、ドリブルで仕掛けるというシーンはなかったが、そういった攻撃に厚みがうまれているシーンで、清武のようにワンタッチ、ダイレクトのアイディアを豊富に持っている選手がサイドもしくは中央に流れて起点になるシーンがこれから増えていって欲しいと思う。ザッケローニは前線の右サイドに岡崎をファーストチョイスすることがこれまでの流れにあるが、今回のように清武をスタートで起用することも監督の頭の中に入っていると願いたい。

 また清武と同じく今シーズンからブンデスリーガ、ハーノファー96に移籍した酒井宏樹、彼もまたこれまでの代表に足りなかったストロングポイントを持った選手であり、そのクロスと仕掛けのタイミングはブンデスリーガでも指折りのSBまでのし上がる可能性を持っていると期待している。内田篤人の累積警告による欠場によってめぐってきた今回のチャンスを「結果」という形で表してもらいたいし、彼はクロスがハマり出すと止められない選手であるからこそ、ロンドン五輪での悔しさを晴らすかのようにA代表でのポジションを奪う勢いでの活躍を望む。清武、両酒井と、欧州若手組の彼らのプレーにも11日のイラクとの最終予選では注目していきたい。

【文/刈部喬太】