就任して間もないザッケローニ監督だが、今日の試合にもたらしたものがある。
それは、ボールとゴールを奪う意識だ。

フットボールにおいて当たり前のことに思えるが、少なくとも南アフリカW杯を戦った日本代表のチームコンセプトからは感じられなかった。それからわずか数ヶ月しか経っていないのにもかかわらず、あの世界王者スペインを破ったアルゼンチンに対して、ボールを奪いにいったのだ。

基本ポジションを守りながらも、4バック以外はメッシやテベスなどが流動的に動くアルゼンチン。対する日本は4−2−3−1のフォーメーションで、GK川島、DFは左から長友、栗原、今野、内田。中盤の底に長谷部と遠藤が入り、その前に香川、本田、岡崎。ワントップに森本という並びだ。

開始15秒、いきなりのアルゼンチンの猛プレスの前に致命的なパスミスをするなど、日本は強豪を前に地に足のつかない立ち上がりとなった。さらに会場は、メッシがボールを持てば大盛り上がり。アルゼンチンはそんなアウェイとは思えぬ雰囲気に気を良くしたのか、ハイプレスをかけ、このプレッシャーの前に日本はビルドアップをしているはずなのに、一転してピンチになってしまうというサイクルに陥る。6分にはメッシに中央を突破され、ワンツーから決定的なシュートをはなたれるが、これはゴールネットの上に。

「不安な立ち上がりだった」とザッケローニ監督は振り返ったが、それでも日本は一歩も引かなかった。
怖がってボールを前に蹴ることなく、繋ぎにいく。ザッケローニ監督が「ポゼッションは世界レベルなのだから、繋いでいこう」と選手に指示を出していたのだ。さらに、「ボールを奪われたら奪いにいこう」という姿勢もみせ、アルゼンチンの一方的な試合にさせない。すると8分には内田のクロスから岡崎な決定的なボレーをはなつ。

ザッケローニ監督には攻撃のキーワードがある。
「“ボールを持ったらゴール、前を見ろ”がという指示を一番言いますね。あとは、サイドチェンジして、的を絞らせないようにしろということ」(長谷部)
迎えた18分。その前への勢いがアルゼンチンゴールをこじ開ける。本田圭のシュートがブロックされるものの、PA前まで上がっていた長谷部が思い切りよくミドルシュートを放つ。日本の勢いを象徴したかのようなシュートは、GKもはじくのが精一杯で、つめていた岡崎がボールをゴールに押し込み、日本が先制点を奪う。

負けられないアルゼンチンは26分、メッシのFKが絶妙なコースに飛ぶが、GK川島がナイスセーブをみせる。このファインプレーをきっかけに徐々に守備も落ち着きを取り戻す。
攻撃は好調で、42分にも香川が左サイドでかき回し、中央の本田、長谷部から最後は右SBの内田というワイドな展開からチャンスを作った。

後半に入ってからも日本は前半と変わらぬリズムで試合を進める。66分にアルゼンチンの針の糸を通すような攻撃にヒヤリとする場面もあったが、69分には逆にカウンターから途中出場の前田がチャンスを作る。71分には初代表の関口、さらに海外組となった阿部を投入し、ピッチをフレッシュにするが、試合は徐々にアルゼンチンペースに。長谷部がラインを上げようと鼓舞し、ベンチも「中盤を厚くするために」(ザッケローニ監督)77分に中村憲剛を投入し、ゴールを割らせない。

逆に88分には、ミドルサードから前田が相手のファウルチャージを受けながら、ドリブルでゴールまで突進する素晴らしいプレーからシュートを放つなど最後までゴールへの姿勢をみせる。アルゼンチン記者とバチスタ監督が舌を巻いたプレスは最後までアルゼンチンを苦しめ、日本が1−0で勝利。57,735人からのスタンディングオベーションを浴びた。

アルゼンチンのバチスタ監督が「時差と疲労があり、スペイン戦のようなパフォーマンスをみせられなかった」と振り返ったように、アルゼンチンは決してベストではなかった。それでも、今日の日本代表のパフォーマンスは充分に今後に期待できるものだ。
ただ、日本代表というチームは監督が代わった時が一番面白い試合を見せることが多々ある。日本選手たちは良くも悪くも色に染まりやすく、監督の指示のみに終始してしまい、プラスアルファが出せなくなってしまう悪癖がある。とはいえ、そういった悪癖は南アフリカW杯で「長年の歴史から変わった」と岡田前監督が評したように、抜けつつある。

ザッケローニ監督になってまだ初戦なため、戦術的な部分はこれからになるだろう。が、とにかく言えるのは、いま、日本代表がとても面白いということだ。(了)