やはりこの国のポテンシャルは凄まじい。
バスケットボール、ベースボール、アメフト、アイスホッケーなど、様々なスポーツで世界のトップレベルにあるアメリカ。オリンピックでのメダル獲得数がダントツのスポーツ大国だが、ことフットボールになるとトーンダウンしてしまう。
なんといっても、フットボールという言葉が指すのは“アメフト”で、サッカーという単語を生み出した国だ。「白黒はっきりしなくて、かつスピード感のないスポーツは好きではない」と公言し、ゆえにサッカー不毛の地とまで言われている。

それでも、アメリカ代表チームは強い。
前半立ち上がりに先制点を奪われ、リズムを取り戻したと思いきや、微妙なタイミングでオフサイドトラップをかいくぐられて追加点を許してしまう。これ以上ない嫌な流れで前半を折り返したが、まったく慌てる素振りを見せなかった。
終わってみれば、２−２。見事試合を振り出しに戻した。そして、なによりその内容はエキサイティングという言葉がぴったりのものだった。

そんな最高のショーを見て、今回のＷ杯はアメリカサッカーが変わるきっかけになるかもしれないと思った。
アメリカ人は愛国心が強い。南アフリカのスタジアムで、国歌がここまでの大ボリュームで歌れたのは、南アフリカの試合くらいだ。フットボールに対して興味がないと言われる国民でも、チャンスになれば「U・S・A」の特大シュプレヒコールと星条旗を掲げる。国家間の戦いであるＷ杯という大会は、アメリカ人の本能をかきたてる要素が充分にある。

今までは弱いことや、内容の退屈さが先行してしまい、国民の興味を引くことができなかった。しかし今回のチームは違う。ボブ・ブラッドリー監督の戦術はアメリカ人好みだ。４−４−２のフォーメーションから生み出すプレッシングとサイドからの攻撃やカウンターは、スピーディーかつ迫力充分。退屈をまったく感じさせない。

アメリカにおいてサッカーは少年と女子のスポーツとされてきた。ただ、逆に言えば育成年代での競技人口がずば抜けていることにもなる。アメリカの人口は約３億人と世界第三位であり、多様な民族がいる。スターティングメンバーを見れば一目瞭然だ。ＦＷは黒人系、中盤は南米系。ＤＦは欧州系と民族の特徴を活かした選手配置がされている。
まだサッカーに本腰を入れている訳ではないアメリカだが、秘める可能性は大きい。アメリカ国民がＷ杯優勝を本気で考え始めたら。間違いなく世界の脅威になるだろう。（了）